話2


□夢見
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狭い、真っ白な部屋の中央に立っていた。
部屋にはおれ一人。
壁にはドアも窓もない。なんにもない。なんの音もしない。においもない。

足元がやけに不安定で、不思議に思って下を見た。原因はわからない。
赤いブーツを履いた俺の脚があるだけ。


いや、違う…これは…

途端に噎せ返るような血の臭いがして、俺は咳き込んだ。



目が覚めて最初に見えたものは、天井ではなく神楽だった。
俺を真下に見下ろす神楽の顔は、霞んでいて遠くにいるように見える。
手の甲で両目を擦った。

少し、喉が痛い。

いつの間にか眠っていた。神楽はどれくらい俺の寝顔を眺めていたのだろうか。

まだ、脳が覚醒しきらない。

女の顔ってのは下から見るもんじゃねぇな、なんて言ったら間違いなく殴られるだろう。
何か考え込むように虚空を睨む神楽をぼんやり眺めているうちに、視界と思考は大分クリアになった。

それでも、喉は痛いままだ。

神楽は再び俺を見下ろしている。眉間に皺が寄っていた。
涎でも垂らしてるかと思って確認してみたが違った。唇はやけに乾いていた。
なんかこいつ怒らせるようなことでもしたけっけかと考えるも、特に思いつかない。
大体それなら黙って俺を見下ろしたりはせず、鳩尾に一発鉄槌くらいは喰らわせてくるはずだ。

喉が痛い。
苺牛乳が飲みたい。

「ねぇ、銀ちゃん」

「なんだよ」

応じる声は掠れていた。腹を出して寝ていたから風邪をひいたのかもしれない。

「何の夢、見てたアルか?」

「…は?」

「すごい…笑ってたアル。なんだか怖い笑い方だったヨ」

「覚えて…ねぇなー」

「そか」

喉が、痛い。

笑ってた覚えは本当になかった。あんな夢見て笑うなんて完全に変態だ。
神楽はまだ疑うように俺を見ている。なんだか責められてるようで、逃れたくて目を閉じた。
するとそこに待っていたのは、あの悪夢の映像だった。
なんなんだよ。勘弁してくんねーかな。

目を開けた。

神楽はいなくなっていた。

なにもない天井だけが、そこにある。

慌てて上半身を起こし、部屋を見回した。

「神楽っ!」

「何アルかー?」

台所からプリンとスプーンを持った神楽が戻ってくる。
息をついて、寝癖のついた後頭部をかき混ぜる。夢と現実ごちゃ混ぜにするなんて、子供か俺は。

「立ってるついでに苺牛乳持ってこい」

誤魔化しついでに言う。

「ちっとは働けヨ。駄目ニート」

いつもなら腹の立つそんな言葉も、今は俺を安心させた。






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