話2
□fighting boy
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この恋には敵が多すぎる…。
頭に浮かんだ言葉はこれまで何度も反芻してきたものなのに、未だに新鮮な絶望を俺に感じさせる。
土方はやはり、女子の方が好きなのだろうか?
「まァ普通に考えりゃそうだろうなァ」
「…高杉、思っていても言ってはいけないことがあるのだぞ?」
「知るかよ。第一お前1回振られてんじゃねェか」
「振られたのではない!まずは友人という段階を踏もうという現実的かつ積極的な誘いをされただけだ」
「そりゃ遠回しに振られてんだって何度言ったらわかんだテメーは」
「お前の呪い言になど耳は貸さん!」
へーへー、と高杉は適当な相槌を打って読みかけの文庫本に目を落とした。全く、憎らしいことこの上ない男だ。恋する男の純情がわからないなんて、ただれた恋愛しかしたことがない奴はこれだからいけない。
「そんならこんなとこでぐだくだしてんじゃねェよ」
「し、仕方なかろう…女子がいっぱいいて…とても…」
あの輪の中に入っていく勇気がないのだ。
教室の後ろのドアに視線をやると、その一帯には土方を中心に5、6人の女子がいる。よく通る高い声は「好きなタイプは?」だの「休みの日は何してるの?」だの、俺も知りたくてたまらない質問をしているのだが、それに答える土方の低い声は悲しいことに俺の席までは届かない。
「騒がしい女は好きじゃねェってよ」
「え?」
高杉がちらりと文庫本から目を上げる。
「助けてやれば?男同士ならそんなに難しくねェだろ?」
「高杉…お前…」
「俺もあのバカ騒ぎはいい加減我慢ならねェからよォ」
そう言って細められた隻眼を、感動をの眼差しで見つめた。持つべきものは友人だというが、どうやら本当らしい。
「なんだよ、さっさと行け」
「恩に着るぞ、高杉!」
へーへー、という適当な相槌も、今は暖かい言葉に聞こえた。
土方のいる場所まではそう遠くない。左手に用意してきたプレゼントの小包をしっかりと持ち、右手の汗をズボンの布で拭いてから、歩き始めた。
終
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