話2


□ハローハロー
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「…打ち上げ、行くだろ?」

「四時に校門集合だって」

「…お前ら勝手に行けばいいアル」

子供みたいだと思いながら、そんな素っ気ない言葉を顔も上げずに返した。
一人でここに座り続けることに意味なんてないのに。だけど、ずっと一緒にいてほしいだなんて、そんな重い彼女のような我が儘は口が裂けても言いたくない。
こうして突っ掛かることの方がたち悪いような気もするけども。

嘘でいいよ。
嘘でいいから明日も明後日も一緒にここにいられるって言ってよ。
そしたら私はきっと笑顔を見せられる。

一度も通じたことのないテレパシーを二人に送る。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たると言うのだから、いい加減的に届いたっていいはずだ。
だって私たちはもう三年間も一緒にいる。

そう。私たちは、三年間ずっと、一緒にいたんだから…。

ね?銀ちゃん。新八。

「ったく。お前みてーな我が儘娘、一生トラウマだわ。屋上とか行ったらぜってーお前の罵声とか思い出しちまう」

「こんだけ毎日のように一緒にいて罵られてたら当然ですよね。あーあ、僕も一生忘れられそうにないなぁ」

「俺らだけ覚えてんのも癪だからよー、お前は俺らの懐の深さとか格好良さとか忘れんじゃねーぞ?」

「なんだヨそれ…」

二人の言葉は私が望んだ形のものではなかった。
けれど何故かその響きは心にすんなりと染み込んで、強張りを溶かしていった。

私は顔を上げた。
銀ちゃんと新八はいつもの間の抜けた顔だ。
大丈夫だと、なんとなく思った。

私たちは卒業する。
いつかまたここにきて仰いだ空が青くても、私たちはもう今の私たちとは別の人間だ。
でも、記憶の中に残していられるのならば、未来の私たちは今の私たちを見ることが出来るのかもしれない。

時は駆け足を私たちに強要する。記憶を薄く細かくして右から左へと流して行く。
けれど私は絶対に忘れてなんかやらない。このコンクリートの手触りを、開けた青空を、この馬鹿で間抜けで愛しい二人のことを。

立ち上がってスカートの裾と膝小僧を払う。

転がしたままだった卒業証書の筒を拾う。

空を見て、胸の花を見て、私を待っている銀ちゃんと新八の顔を交互に見る。

「お前らのアホ面、絶対に忘れないアル」

「「それはこっちの台詞」」

吹く風を背に受けて、屋上の扉へと三組の足を踏み出す。





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