話2


□街路樹
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秋の、夕焼けた町を、走っていく。

「………だな」

「なんつった?」

「い……お…だ…」

「聞こえねーし!」

スクーターのエンジン音で、俺には銀の言葉がよく聞こえない。耳まで覆うヘルメットのせいもあるだろう。

自分はノーヘルのくせに、銀はいつも俺に無理やりメットを被せるのだ。髪が潰れるから嫌だと言うのに聞きやしない。
ちゃらんぽらんなところが目立つけど、銀は俺に対しては真面目で心配症だ。そんなところが、嫌いじゃない。

あれ、これノロケか?

秋はどうも感情がストレートになっていけない。表に出さないように気を付けなくては。銀はすぐ調子に乗って俺をからかうから。

思考を追い出そうと、絵巻のように変わっていく景色を眺めた。夕焼けの中の町並みは見慣れているはずなのに、何かがいつもと違う気がする。

顔を寄せている肩口からは銀の家の匂いがした。
久しぶりに見た黒いパーカーは、去年の今頃に一緒に買いに行ったものだ。結構似合ってると言うと、銀は試着室の中で顔を真っ赤にして店員を驚かせたのだった。
そんなことを思い出して一人小さく笑う。

ミラー越しに、銀が怪訝そうな顔でこっちを見ていた。

「なんでもねーよ」

そう言ってやるのとほとんど同時に、スクーターが道の端に寄って止まった。まだ目的地でもなんでもない。わざわざエンジンを止めるほど俺の思い出し笑いが気になったのだろうか。

「どーした?」

「金木犀」

「ん?」

「いい匂いじゃね?」

そう言われて、町の空気を吸い込んでみる。たしかに金木犀の甘い匂いがした。なんだか懐かしい匂いだ。

「さっきからちょいちょい匂ってんの、気づかなかったか?」

お前の服の匂いを嗅いでいたなんて、恥ずかしくて言えない。

「…それを言ってたんだな」

「そうそう。そーいやなに一人で笑ってたんだよ」

去年のお前のことを思い出してた、なんて言うのもやっぱり恥ずかしい。黙秘だ。

誤魔化すために、背中を叩いた。いてーなと言って笑う銀には、今年も変わらずに黒いパーカーが似合っていると思った。





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