話2


□遮二無二少女、参る
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私は無欲でも無力でもなくて、無学はちょっと怪しいところだけどとにかく、私は今こいつが欲しくてたまらない。

こんな即物的にはしたなく表現することしか出来ない私は、やっぱり乙女失格なんだろうか。恥じらいとかそういうもんは一体いつ装備出来るものなんだろう。今のところの人生では残念ながらその機会は訪れていない。

まぁいい。体裁などはこの際問題じゃない。
開戦の音はもう鳴らしてしまったのだから、こうなれば私は死ぬまで突き進むより他にないのだ。

欲深で力の有り余っているこの私は今、意中の男を教室の床に押し倒した、まさにその時だった。

授業後掃除したとはいえこのクラスの生徒が適当にやったのだから当然綺麗とは言えない。そんな場所に仰向けに寢転がされて、しかも女子が腹部に股がっていて、こいつは今どんな気持ちなんだろう。

顔を見下ろすも、言葉もなくただ見返されている。瞳には私が映っている。少なくともこの両目は今私のものだ。もちろんそれだけで満足できるほど私は淑やかじゃない。

「なんか言えヨ」

「眠ィ…寝そう」

まさかの睡眠欲。そういえばこいつは授業中だろうと休み時間だろうと隙さえあればアイマスクをして寝ている男だった。自分の欲望に忠実な点は私ととてもよく似ている。

しかし、性欲と睡眠欲は似ているようで全く相反する存在だ。寝たいのは同じなのに、私たちは別のものを求めている。なんという悲劇だろう。

「お前あったけェし、意外と重くねェし…布団代わりになっかも…」

そう言いながらゆっくり細められていく目。映された私もゆっくり見えなくなっていく。

私は布団を共にするのは賛成だけど、布団にされる気などはさらさらない。大体床で寝るってどういう神経だ。押し倒したのが自分であるのは今ちょっと置いておくとして。

「なんで女の子に襲われて呑気に寝られるアルか!」

頬っぺたをつねると、沖田は片目だけを開いて私を見た。大きな目に映る小さな私はどう見ても焦っている。くそう、全然違うじゃないか。押し倒したらすぐに形勢逆転されて、そのままっていうのが定石なんじゃないのか。小説の嘘つき。

「ムードなさすぎでィ。もっと勉強しな」

沖田はそう言ってあっさりその片目も閉ざした。こいつ、本気で寝る気だ。唖然とする私の下で、薄い胸の動きはどんどんと安らかなものになっていく。そういえば押し倒して乗っかった最初から、こいつの心臓は鼓動を速めなかった。

なんだよ、くそう。全部私の空回りじゃないか。やっぱり恥じらいとか乙女心とかないと駄目なのか。だとしたらどこへ行けば手に入るのだろうか。あぁわからない。遠回りなのは性に合わない。

「覚えてろヨ!いつか絶対に襲わせてやる!」

絡まった脳みそからなんとかそんな言葉だけを絞り出して、もはや本当に眠っているんじゃないかとも思われる沖田に吐き捨てる。

そしてそのまま捨て置いて逃走した。







再び参る

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