話2


□再び参る
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私はどうも戦闘的な体質というか、世に言う肉食女子というやつなので、好きな男がいたら捕まえるために突っ走らずにはいられない。後先も外聞も考えない。取って食う、そのためだけに私の手や口はあるのだとわりと本気で思っていたりする。だから勉強が出来ないのだ、なんてそんな言い訳は今はいらないか。

だからなんというか、私の気持ちはそんじょそこらの恋する女子のに比べたらよっぽど純粋なのだと思う。あいつを捕らえて食い尽くしたい、それだけのこと。

しかし相手は手強かった。官能小説のシチュエーションを真似て襲いかかってみたというのに、その反応ときたら。いっそ鮪の方が活きが良いくらいだった。

ムードが無いとあいつは言った。それにはきっと女の子らしい恥じらいとか、なんかこうピンクっぽいものが必要なのだろう。私には生まれてこのかた縁の無いものだ。

私には女らしさが足りない。それくらい嫌ってほど自覚している。けれど、らしくあろうがなかろうが現に私は女なのだ。押し倒してまたがってしまえばなんとかなるだろうと思っていたのに。ちなみに言えば私の好きな色は赤だ。燃えるような情熱の色。ピンクなんていう温い色では満足出来ない。

ならばピンク以外でムードのある色を。

「…どうアルか?」

セーラー服を脱ぎ捨てて上半身はブラ一枚。母親の遺した紫色の勝負下着だ。もちろん上下セットだからパンツも紫。しかも紐パンだ。でもスカートは脱がせてほしいからまだ穿いたままにしている。

そして私は前回の学習を生かし、恥じらう素振りを付け加えていた。ブラが見えるようにしつつ、胸元を腕で隠しているのだ。あと上目遣いと不安そうな口振り。これは漫画で覚えた。

きっと沖田もたまらず食らいついてくることだろう。ほら、なんかすごい凝視してるし。

「それサイズ合ってねェだろ」

「…え?」

「見栄はってでけェのつけると逆効果だぜィ?」

なんだこいつ、販売員かなんかか。いや、違う。同じクラスの男子だ。思春期真っ盛りの17歳だ。性欲が溢れんばかりにあるはず。なのになんで目の前で女の子が下着姿で恥じらってんのにそんな馬鹿みたいに冷静にアドバイスなんて与えられるんだ。頭おかしいんじゃないのか。

絶句している私の目の前では、沖田が机に座って足をぷらぷらさせたままあくびをした。

「眠ィ」

またそれかよ!

「アイマスクとブラって、似てるな」

似てねーよ!

沖田は置物でも眺めるかのような無関心さで私の胸元を見ている。見たいとか見たくないとかいう意志すらなく、ただ目の前にそれがあるから一応視線をそこに合わせてる、そんな感じだった。

「…どうすればムードって出るアルか…」

セーラー服を着ながら、あまりの落胆ついでに思わず聞いてしまった。狩りたい相手に戦略を聞くのが愚行だということはわかっているのだけれど。でもなんかもう、どうしたらいいのかわからなくなってしまったのだ。自信もプライドも今はすっかり鳴りを潜めている。

「自分で考えなァ」

「…だって…」

「とりあえず、なんかの真似じゃ俺は動かねェぜィ?」

俯く私にそれだけ言い残して、沖田はたらたらとした足音をたてながら教室を出て行った。

なんという難問。それが出来れば最初からやっているってんだ。だって真似でもしなければ方法なんてわからないじゃないか。好きな人との接し方なんて誰も教えてくれなかった。母は紫色の勝負下着とデリカシーのない旦那と息子しか遺さずに逝ってしまったし。

それでも、私は、あいつが欲しい。

結ばぬまま持っていた赤いリボンを強く握る。

私は肉食女子というやつだ。獲物を仕留めることを諦めるのは即ち死だ。恥を恐れて死ぬよりも、私はみっともない生を選びたい。

次こそ、襲われてやる。

リボンは握ったまま、パッドをぎゅうぎゅうに詰めた胸を張り私も教室を出た。






三度!

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