話2


□Mr.Bright
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深く吸ってから吐いた息は、排気ガスの漂う空気中へ白く霧散していった。

間隔を置いて照らされる銀時の顔は、大袈裟に言ってしまえば泣きそうですらあった。なんてらしくない顔なんだろう。俺はそれ以上文句を言うのをやめ、光を放つ一揃いの目をじっと見つめた。

「愛してる」

銀時はそう繰り返すと、俺の指先に挟まっていた煙草を奪った。そのまま車道へと放る腕の軌跡が、俺の横目に映る。

抗議する間もなく、俺は両手の空いた銀時に抱き寄せられた。緩い力だ。腰掛けていて少し低い位置にあった俺の額は、銀時の胸元にぽとりと収まった。

「喫煙は緩慢な自殺って言うだろ?」

「…知らねェよ」

少し力を入れれば逃れられるような拘束。だからだろうか。いつもより静かに紡がれる言葉に拍子抜けしたせいもあって、俺は普段なら許さないような状況を大人しく受け入れていた。さっきまでの苛立ちもいつの間にやら消えている。

「なんかよ、大切な奴が死に向かってるって思うと、辛いじゃねーか」

「らしくねェこと言うなよ」

銀時の声は車の音に掻き消されつつ俺の耳へと伝わる。きっと俺の声も同じように、ぎりぎりで届いているのだろう。普段はしょっちゅう怒鳴りあっている二人が、妙なものだ。

閉じた目の奥に、銀時に反射していた光が残って瞬いていた。それは煙草の先に点る小さな炎よりも更に頼り無さげで、それでも確かな存在感を持って俺の内側を照らす。

ニコチンを摂取した時とは違う安堵を覚えて、出来たらずっとこうしていたいとすら思った。多分これは、依存症という病気に近いなにかだ。一度覚えてしまったら簡単には忘れられない、摩訶不思議な作用。

「どうしようもないくらい愛してるから、お前は俺より長生きしろ」

「馬鹿だな、お前」

そんなこと言われれば、俺だって後に残されたくなくなってしまう。どうにかして先に死んでやろうと尚のこと喫煙に精を出すに違いない。俺はそういう自分勝手な人間だ。

そんなことも知らずに俺を抱きしめる銀時は、正真正銘本物の大馬鹿野郎だ。しかしこれほどの馬鹿を残して逝くのもなんだか気が咎める。

「俺が死ぬ時は、お前も死ねよ」

「俺は生きるから、お前も生きとけ」

唯一の妥協案は引っくり返された。無茶なことを言ってくれるもんだ。アホかと呟いて、無防備な脇腹を軽く殴る。けれど言葉の甘やかで明るい響きにちょっと絆されて、まぁそれもいいかと思った。

今度電子タバコでも買ってみようか。あの先端に点るちゃちな光が、俺たちの未来を少しは照らすかもしれない。









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