話2


□き ぎ
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気付けば太陽も昇って、すっかり朝だった。

久々に現れた桂を追って、追って、追って。ひたすら追っているうちに夜が明けてしまったのだ。なんとも虚しい時間の使い方だと俺は思う。

雑木林のあちこちから「いたか?」「こっちにはいない」「本当に逃げ足が早いな」そんな声が聞こえてきた。
一番隊にはやる気満々な奴等が多い。俺のやる気のなさとプラマイゼロにするつもりで集めたのかもしれなかった。副長の采配ってやつは、俺からしてみればいつも余計なお世話だ。



仏頂面で隣を歩く土方さんは、ここ数時間ずっと黙りこくっている。
辺りを睨み付けるようにしている目の下には、うっすらと青い隈が浮いていた。徹夜をするともろに顔に出る人なのだ。
俺のサボりを阻止するためなのか一晩中横にいるが、タバコ臭いし辛気臭いしで鬱陶しいったらない。

斬り捨ててやりたいが、殺気だっているせいで微塵も隙がなかった。一晩中ずっと気を張っているのだ、この男は。いつもは間抜けなほど隙だらけのくせに。

そんなに捕まえたいのかねィ。

上の方からせっつかれているのかもしれない。そういう情報は俺には伝わらないからわからないけれど。

木漏れ日を反射して、繁る草々についた朝露があちこち光っていた。その雫を方々に飛ばしながら、俺たちは捕まりそうにもない男を探している。いい加減眠い。帰りたい。

隠しもせず、大きなあくびを洩らす。

ちらりと咎めるように俺を睨んだ土方さんも、つられたのか小さなあくびをしかけて、渋い顔で噛み殺した。

隙見っけ。

けれど斬るほどの元気は残っておらず、

「いたぞ!桂だ!」

届いた声の方へ再び殺気満々にして駆けていく背を、仕方なく追った。






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