話2
□鳴り物入り
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「高杉とは別れたんですかィ?」
「まず付き合ってねェ」
そう言って焼きそばパンにかじりついた土方さんは、俺の見る限りこのごろ常に不機嫌MAXだ。
毎日朝から額に皺を寄せ、昼を回ってもその皺は消えない。もちろん終令が終わっても健在だ。最早デフォルト化して消えなくなっているんじゃないだろうか。
「でも高杉が原因なんでしょう?喧嘩でもしやしたか?」
その皺、と指差すと、土方さんはますます溝を深めて咀嚼を続けた。やはり何かあったのだろう。ここ何日かは二人同時に授業をサボることもないし、高杉の方を見ても明らかに機嫌が悪そうだった。
「…知るか。あいつが勝手にへそ曲げたんだ」
そう言って、土方さんはマヨネーズを嫌ってほど盛った焼きそばパンをまた一口頬張る。その唇の端に僅かなマヨが残った。
本人は気付かずに、一層不機嫌さを増した表情で食べ進めていく。
その姿をぼんやり眺めているうちに、グロテスクな風貌のパンはこの世から消えた。あとに残ったのはマヨネーズをつけたままの土方さんと、その正面に座る俺だけだ。
特に迷うこともなく、唇の端に指先を伸ばして掬いとる。そのまま自分の口へと運んで舐めとった。やっぱり大してうまくもない。この人の趣味は全体的によくわからない。
「お前…そんなにマヨネーズ食いたかったのか。悪かったな」
少し照れたような顔をしたかと思えば、なに的外れなことを言い出すのか。鈍すぎて殺したくなる。俺が欲しいのはそんな油分まみれの調味料なんかじゃない。まぁこの人にとっちゃ調味料ではなく主食なのだろうけど。
「ところであんた、高杉のことどう思ってるんですかィ?」
「…どうって…わけわかんねェ奴だよ、あいつは」
「重要なのは好きなのか嫌いなのかでさァ」
中身をなくしたパンの袋が、土方さんの手の中で音をたてて潰れた。まさしく動揺を表すかのような音だ。ちょっと感心した。
「…わけわかんね」
「単純な質問ですぜィ?」
プラスチック素材の袋に反し、土方さんはどうも素直じゃない。もしかしたら本当にわかっていないのかもしれないけど。これだけ鈍感なら自分の気持ちに気付いていなくたって不思議じゃない。
それならまだ、付け入る隙は大いにあるだろう。