話2


□そこは開けた袋小路だった
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一日降るはずだった雨は午前中であがって、用無しとなった傘を奇跡的に忘れなかった俺たちは、その先を地面に引きずりながらたらたらと歩いていた。

いつの間にか会話の主題はチョコを何個貰ったかになっていて、せーので同時に言った数が見事に同じだったから、負けず嫌いな俺たちは「あのときのカウントし忘れてた」だの「そういや今朝も貰った」だのとどんどん個数を上乗せしていき、最終的にその数は30個まで届いた。

なんか虚しくなって、どちらともなく黙りこんだ。

そこはちょうど互いの家への分岐点だったけど、なんとなく収まりのつかない俺たちは自然と立ち止まっていた。傘の先でアスファルトをつつく。土方の傘にちょっかいを出すと、同じようにやり返された。無言の攻防が繰り広げられる。

「…やっぱチョコってよ、個数じゃなくて誰から貰ったかじゃね?」

「たしかに」

かつん、と土方の傘の先が鳴った。

「欲しい奴からは、貰えたのかよ」

「あー…貰ってねェ」

だってお前くれなかったじゃん。

そんな言葉は半笑いの奥に隠す。気付きやしないだろうけど、反応が気になって土方の顔を見た。ふざけてるのかなんなのか、向き合う土方も同じように半笑いだ。臆病な俺は、無駄に細めた目で土方を見つめる。土方も細まった目で俺を見ている。そんな時間が少し続いた。

誰って聞かれたらどうしようとか、お前はどうなのと聞き返した方が良いかもとか、いっそこれは告白のチャンスなんじゃとか、何で黙ってんの土方とか、頭の中でごちゃごちゃと思いが絡んで、手に負えなくて。

影が伸びて、風が冷えて寒くて、でも帰ろうって言いたくなくて、そして無意識に擦った俺の腕を土方が見て、

「寒くなってきたな…、帰っか」

言われてしまった俺の言いたくなかった言葉は、群青色の北風に乗って、跡形もなく消えた。

反射的に何てことはない風を装って頷きを返すと、土方は半笑いの残った顔を自分の家の方へと向け、足を踏み出した。

「また明日な」

「…おう」

その歩みを追いかけたい気持ちになって、それでも臆病な俺の足先が踏み出されることはなくて。足音と傘を引きずる音が遠ざかっていく。土方の行く先を、沈み行く太陽が最後の光で赤く照らしている。

言いたいのに言われなかった思いだけが残って、縦に振ってしまった頭がひどく重く感じられた。








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