話3
□白眼視クラッシャー
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毎日毎日、やっぱりなんとなく平穏に過ぎ去っていく。
風が起こって小さく波がたっても、大した時間も経ずに消える。そんなもんだ。
退屈だなんて言葉すら思い浮かばないほど、退屈に退屈を掛け合わせたような、純粋に退屈な日常。
…の、はずだ。
「また眉間に皺寄ってますぜィ?」
「もともとこういう顔だ」
「悩みごとなら相談しなせェ」
「なんもねェよ」
「嘘つき」
天井を背景にした総悟の顔には、逆光による薄い影が落ちている。色彩の消えた薄い唇の端が上がって、挑発的な形を作った。
少し腹はたつが、関わると面倒なことは経験上よくわかっているので、無視を決め込んで目を閉じる。何故あいつもこいつも人を玩具にするのが好きなんだろうか。放っておいてほしい。
「土方さん」
頬を指先でつつかれる。爪が伸びているらしくちくちくとした痛みがあるが、我慢できない程ではなかった。このくらいで気が済むならいくらでもつつけばいい。そしてさっさと飽きてくれ。
「あんた、無防備すぎるんでさァ」
「は?」
聞き返した唇に、謎の感触。
見開いた目の、あまりに近くに総悟の顔があった。呆気に取られている隙に、駄目押しのように再び唇をくっつけてくる。柔らかな感触は目を閉じていた時よりずっとリアルで、さすがに我に反って総悟の体を押し退けた。すぐに上半身を起こし、安全確保のために距離を置く。
なんだ、なんなんだ、こういう嫌がらせが流行ってるとでもいうのか。どうして俺の周りにはろくな奴がいない。あいつもこいつも、なんだってんだ。
「好きなんでさァ」
「うっせェ…そういう冗談は嫌いなんだよ」
「冗談じゃありやせん。ずっと、好きでした」
どう考えても冗談としか思えない言葉を総悟は真顔で吐いて、じりじりとにじり寄ってくる。座った姿勢のまま、俺もじりじりと後退するが、
狭い部屋、すぐに体は壁に触れ、総悟は傍まで迫った。
いつまでこの遊びを続けるつもりなのだろうか。あいつにしろこいつにしろ、いかにも飽きっぽそうなくせに意外としつこくて困る。俺の反応の仕方が悪いんだろうか。増長させるようなことを無意識にしているのかもしれない。昔からよく喧嘩売られる方だし。
「好きです。あんたが信じるまで何度でも言いまさァ」
「お前ら…なんか口裏でも合わせて遊んでんじゃねーの?」
ため息をつくと、ずいっと勢い任せに詰め寄られ、完全に追い込まれた。足掻くようなみっともない真似はしたくなくて、とりあえず睨み付ける。交錯する視線。
子供みたいに、丸い目だと思った。あいつの隻眼とは全然違う形。こんな風にまじまじと、近くで顔を見るのは初めてだ。
「あいつのことなんか、…忘れなせェ」
少し枯れたような声は、冗談にしては切実な響きを孕んでいた。