話3

□白眼視クラッシャー
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「土方さん」

「…んだよ」

真剣な瞳に気圧される。

息を飲んだ、その時。

「とぉぉぉおしろぉぉぉおおお!」

地鳴りに似た呼び声と共に、巨大な石を水面に叩きつけるような音をたてて引き戸が開いた。

転がり込むように入ってきたのは、何故か激しくブレザーを着崩した高杉だった。後ろ手に勢いよく戸を閉め、反動で少し隙間が開いたことには気付かずふらふらとこちらに向かってくる。

切れた息、乱れた髪、脱げかけたブレザーと胸元の開きすぎているシャツ、そしてどことなく怯えたような目。いつもの人をおちょくったような雰囲気は全くない。廊下で熊にでも襲われたのだろうか。

唖然と固まって近付いてくるその姿を見上げていると、すぐ傍までやってきた高杉は俺の横に膝をついた。

「十四郎…」

「ど、どうしたんだよお前」

「悪かった…!」

「…は?」

らしくない言葉と行動に目を丸める。あのいつも偉そうな高杉が、俺に謝罪をしている。こんな風に下げられたこいつの頭を、これまで見たこがあっただろうか。

「いや、なんつーか…その、よォ…お前の気持ちをだな…」

高杉は俯いたままごにょごにょと聞き取りづらい声で何かを説明し始め、耳を近付けて根気よく聞いていくうちに、冗談かと疑うような事情の全てが語られた。

「…アホでィ」

高杉の言葉が途切れたと同時に、同じようにして聞いていた総悟が一足早く感想を洩らした。

高杉はムッとしたように顔を上げて、けれどすぐにまた下を向いた。多分、本人にだってアホらしいということはわかっているのだろう。

俺の気持ちを知ろうとして襲われてはみたけど、やっぱり無理で逃げてきた、本当に悪いことをした、なんて。

あぁ、バカだ。バカすぎる。こんなに罪悪感かんじて、総悟もいるってのに情けない姿晒して。明日からぼろくそにからかわれんぞ。

高杉はそんなことには頭も回らないくらい参ってるらしく、ちらちらと俺の様子を窺いながらも俯き続けていた。飼い主に叱られた犬みたいだ。

もしかしたらこれまでのことも、加減を知らない子犬がじゃれてきたって感じなのかもしれない。そう思うと項垂れる高杉がなんだか可愛く見えて、ちょっと笑えてきた。




 
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