話3

□アワハンズ
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「手ェつながね?」

「嫌だ」

「なんで!」

「…なんとなく」

簡潔に答えて歩みを速めると、銀時が大股に歩み寄ってくる音が聞こえた。地面に残って固くなった雪を踏みしめる音。ざくざくざくざく。俺も同じリズムで遠ざかる。

前から冷たい北風が吹いてきた。寒さに苛立ちながら、少しずり落ちていたマフラーを鼻の上まであげ直す。俺は寒いのがこの世の何よりも嫌いなのだ。本当なら外にすら出たくない。

ざくざくざくざくと、二重になって続く音も甚だしく寒々しくて苛立ちを煽った。大体、こいつがこんな寒い日にデートになんか誘うのがいけない。マジで空気読め。寒波見極めろ。

「とーしろー、手がさみー。あっためてくれー」

「しつけェ。ポケットに突っ込んどけ」

「俺のポケットはお前への愛でいっぱいだからよー」

「半分捨てろ」

「それは無理!」

やけにきっぱりと言い放ったと思いきや、銀時はアスファルトを駆け、俺の前へ回り込んだ。

赤くなった手が差し出される。呆れて、立ち止まってとりあえずじっと見てやった。

「お願いしまーす!」

「…断る」

「なんでだよォォォ!」

「うっせ」

ふいとそらした顔が、冷えきった手で挟まれた。マフラーで覆われている部分は守られたが、むき出しの目の横やこめかみにひやりとした感触。飛び上がるほどではないものの、そのたしかな冷たさは俺の体を僅かに強張らせた。

「理由が、あんだろ?」

「…なんとなくだ。言ったろーが」

銀時が俺の顔から手を離して、そのまま強引に、ポケットに突っ込んでいた俺の右手を引っ張り出した。

抵抗敵わず、がっちりと指と指とを組まれる。ずっと冷気にさらされていた銀時の左手は、その冷たさの分だけ強い存在感があった。

「理由言うまで離さねェからな」

「…なら言わね」

「え!?」

聞き返す言葉には答えず、組まれた手を強く引いて、小汚い雪の乗ったアスファルトの上を行く。

一度繋いだ手が離れるときの、あの心寒さが嫌いだ。
そんな理由を話せばきっと笑われるから。絶対に、一生言わない。






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