話3

□お隣くんが不用心!
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「トシくーん、お醤油貸してもらえないかなー?」

何時もどおり、簡単なノックを一度しただけでドアを開ける。間取りが同じだけど雰囲気の違う部屋が目の前に現れて、その中には見慣れた隣人の姿。

す、がたァァァ!?

「ちょ!トシくん!その格好!」

「あ?風呂あがりだ」

ボクサーパンツを身に付け、肩にタオルを掛けただけの裸体で、トシくんはいつも通り特に驚きもせず俺を迎えた。
慌てて玄関に入り込んでドアを閉める。こんな姿を他の奴に見られでもしたら、トシくんの身が危ない。

というか正直俺が襲ってしまいそうだった。自分の家へ一度戻るのが正解だったかもしれない。頼むから頑張って耐えて俺の理性!この恋心は秘密なんだから。仲の良いお隣さんでいたいんだ俺は!

「ほらよ」

そんな俺の孤独な戦いなど知る由もなく、半裸のトシくんが醤油を片手に近づいてくる。
手を伸ばせば、届く。
少し前に出せば、触れてしまえるトシくんの肌に…!

「顔赤いぞ、熱でもあんのか?」

ト、トシくんの手が、俺の額にィィィ!
なにこの美味しいシチュエーション!俺もう夕飯いらない!玉子かけご飯作るつもりだったけどいらない!この子が欲しい!もう、お隣さんじゃ我慢できません、俺!

「トシくん!」

「熱はねェみたいだな」

「好きだ!」

「…醤油が…?」

「ちっがーう!」

靴を脱ぎ捨ててあがりこみ、トシくんの肩をがしっと掴む。すべすべで少し風呂の温度が残ったような肌の感触に、俺の理性は完全に焼き切れた。

「俺、トシくんのことが好きだ!」

「…ちょ、山崎…!」

抱き締めた体から、ほのかに石鹸の匂いがする。思わず首筋に鼻の先をくっつけると、くすぐったいのかトシくんが小さな声をあげて身をよじった。その可愛すぎる反応に、ますます俺の本能は加速していく。

もう、食べちゃいたい。

「嫌だったら、殴ってでも止めて。俺、自分じゃどうしようもない」

残った理性の欠片でそう告げると、トシくんは絶句して目を丸めた。その手から醤油さしを奪ってすぐ横の窓辺に置く。本当に最後の理性で、一呼吸分、殴られるのを待った。蹴りかもなと思いながら待った。

けれど。

「…それはこっちの台詞だ、この鈍感野郎」

「え?」

言葉を理解するより早く、かじりつくようなキスをされた。理解した頃にはもう主導権を握るのに必死でそれどころじゃなかった。

喰らいあうような、そんな表現が似合う長い長い口付け。トシくんが段々と俺の舌の動きに従うようになって、やっと心に余裕が生まれる。

今頃、隣の俺の部屋ではご飯が炊けていることだろう。

湯中りしたかのようにぐったりとしたトシくんを部屋の奥まで連れていきながら、湯気を出す炊飯器を頭の片隅に思い浮かべた。

米には暫く待っていてもらおう。いつもわざと無防備に鍵を開けて待っていてくれたこの子を、今はひたすらに愛したいんだ。







山崎ハピバ!

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