話3

□失墜と楽園
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露になった土方の体は、生まれたままの姿というには、なんというか相応しくなかった。美しい、という屈折した感想を河上は意識の底で圧し殺す。それを認めてしまえば自分もこの奇妙な世界に取り込まれてしまうような気がして。

薄く筋肉の乗った細い体は目に焼き付くほど白く、所々に浮かぶ刀傷の跡がその白に鈍い彩りを与えている。これほどまでに傷跡の似合う体が、この世に他にあるだろうか。

土方の周りに落ちて溜まった赤い布が、まるで気の利いた舞台装置かなにかのようにその体の存在を一層際立たせていた。

なるほど高杉が気に入るわけだ。

「総悟は、強いぜ」

土方の言葉が、自分への返事だと気づくまでに僅かに時間がかかった。ゆるりと、視線を向けられる。河上を見る土方の顔は無表情だった。電柱にでも向き合っているかのようだが、実際その程度に認識されているのかもしれない。

「…いいんで、ござるな?」

少し非難めいた響きが混じった。

「やらねェで済むならその方がいい」

だが、と血色の悪い唇は動き続ける。

「俺たちの邪魔すんなら、仕方ないだろ?」

「…」

言いきって高杉へと顔を戻す土方の横顔には、一点の迷いもない笑みが浮かんでいた。

ぞっとして、素早く踵を返し戸を開く。もうこの空間にはいたくない。シュールな悪夢を見ているような気分だった。ここで目が覚めればどんなにほっとするだろうか。

しかし、廊下の冷えた空気も河上の目を覚まさせることはなかった。

「しくじんじゃねェぞ」

背中に投げられた言葉に頷きだけを返し、戸を閉めて足早にその場を去る。
ぴちゃぴちゃと、先程とは少し異なる水音が追いかけるように聞こえてきて、河上は初めて自身の鋭敏すぎる聴覚を恨んだ。








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