話3

□世界の片隅とロマンス
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なぁ、十四郎。多分の話で悪いんだけどさ、

俺お前が死んだら後追っちゃうと思う。

「ざけんな」

のっぺりとした銀時の言葉を跳ね返し、土方は新しい煙草に火を着ける。どうも今宵のこの男は酔い方がよろしくない気がする。妙なことを言い出すのは悪癖のようなものだから放っておくとしても、こんな女々しい言葉を吐くのはらしくない。

「ほんとそんくらい、お前いないと無理」

少しだけ熱を持った言葉が、食いかけのホッケに向かって放たれた。そのホッケも十四郎という名前なのかもしれないが、もちろん死んだ魚は返事などしない。
虚ろな目と目。
さっきから銀時は土方の顔を見ない。カウンターの上に並んだ料理か、酒の入ったコップをぼんやり見つめるばかりだ。口調ははっきりしているから、まだそれほど酔っているわけでもないのだろう。だとすれば、簡単に酔っ払いの戯れ言とも片付けられない。

土方は玉子焼きへと移された視線の中に、無言で右手を投じてみた。反応がないのでひらひらと振ってみせる。もしや具合でも悪いのだろうか。バカは風邪をひかないと言うが、季節の変わり目の気温差はなかなか手強い。

だがそんな心配は的外れだった。引ったくりのように素早く右手を掴まれ、土方は危うく椅子から落ちそうになる。カウンターに左手をついて支えると、持っていた煙草から灰が落ちた。箸も転げて一本床に落ちるが、ざわめきに満ちた店内にその音は響かず、誰の注意も呼ばなかった。土方を見るのは銀時だけだ。さっきまでの表情が幻だと思わされるような、真剣で、憎らしいほど男らしい顔。戦に向かう武将のような、力強い視線。

そんな顔をするのは、反則じゃないか。

いつものやる気のない雰囲気も、女々しい言葉を吐いていたことも、記憶から抹消されてしまいそうになる。握られた手が熱い。見つめられる顔が熱い。

「だから、生涯護らせてくんね?」

「…な、お前…」

ニヤリと笑んで、銀時は土方の右手の甲に口を付けた。慌てて周囲を見回すが、それぞれに盛り上がる店内にこちらを気にかける者はやはりいない。

「…バカ野郎。護られなきゃ死ぬほど弱くねェってんだよ」

「知ってる。でも、万が一ってこともあんだろ?お前すぐ無茶するから」

「お前に言われたくねーし」

「じゃ、生涯護りあうってことで」

プロポーズみたいな会話も、手が握られたままでいることも照れ臭くて、土方はグラスに残っていた酒を一気に飲み干した。







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