話3

□叶うなら水葬
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苦しい苦しい苦しい苦しい死んでしまう。

吸える息には限りがある。それはわかっている。肺が無限に膨らむわけはない。万が一膨らみでもしたら大変なことだ。心臓は呆気なく潰れ、アバラは音をたてて砕け、胸の肉は無残に裂けて赤い血が散るだろう。そうなれば死だ、間違いなく。数多の敵と対峙し、死線と呼ばれるようなものも幾度か潜り抜けては来たが、さすがに膨張する肺には敵う気がしない。

そもそも俺は、肺が破裂するほどたくさんの空気を求めているわけではなかった。ただ、今のこれでは足りない、とても足りない。口がもう一つ欲しいくらいだ。酸素が行き渡らないせいで頭は朦朧とするし、心臓の動悸は激しく危機的状況を訴えている。喧しい。

「おい、なにを考えてる?」

「あー…キスが、しつけぇ」

「愛があんだろォが」

「窒息するっつーの…」

やっと満足に呼吸出来るようになり、肺の許容量いっぱいまで酸素を取り込む。まだ頭はクラクラとしていて、不本意に組み敷かれているというのに抵抗出来ない。高杉は不服そうに眉をひそめ、それでも唇は愉しげに歪めて俺の着流しを脱がしにかかっていた。

裸にしたいならいっそさっさとすればいいのに、いちいち鎖骨を舐めたり脇腹を撫で回してきたりとキス同様にしつこい。弄ばれているようで良い気はしなかった。

気持ちに反して、身体が刺激を喜んでいるのがますます腹立たしい。

「…粘着質」

「好きだろ?」

ねっとりと、心に絡みつくような妖艶な笑み。

「…なわけねーだろ…」

即座に否定出来なかった俺が窒息死する日は、きっとそう遠くない。






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