話3

□midnight behind
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天体構成は時間分の変化を遂げていた。満月に僅かに満たない月は西側に移動している。相変わらず強い光を放っており、空は深夜とは思えないほど明るかった。

先程まではなかった星が東の空に朧に瞬き、不完全な星座を形作っていた。殊更強く光る星しか視認出来ないのは空が明るすぎるためだ。天体観測をするには不都合極まりない。

しかし高杉は夜空を観たいわけではなかった。春の星座にも巨大な満月にも興味はない。ただ目の前にあったから眺めてみただけだ。美しいとすら思わない。あの星の一つ一つを破壊して回れたらすっきりするだろう、そんな物騒な考えを月明かりの中に浮かべている。

静かな足音をたてて窓辺に近付き、高杉の隣に立つ者があった。

「綺麗だな」

「平和な感性だ」

「…まだ怒ってんのか?」

「そうかもしれねェなァ」

「悪かったって」

そう言って土方は高杉の体に腕を回した。着流しをだらしなく纏った二つの身体が、板張りの床に長く歪な影を描く。

激しい行為によって掠れた土方の声は、何時にも増して扇情的だった。ずっと聞いていたくなる。この男を永遠に独占出来るならば、残りの視力を失ったって構わない。

高杉は非現実的な交換条件を頭の片隅で弄びながら、月光を反射する土方の白い肩に唇を寄せた。軽く口付けた後に容赦なく噛みつき、その跡を舌の先で舐めてやる。

「っ、晋助…」

土方は満更でもないような声音で高杉の名を呼んだ。

歯形を刻印され唾液に濡れた右肩は、星々や月なんかより余程美しかった。苦悶と快楽を黄金率でブレンドした悩ましげな表情で、土方は高杉を見つめている。尚のこと機嫌を良くして、高杉は求めるように開かれた唇に軽いキスを与えた。

「来年は前日から監禁する」

「…そう簡単に拐われてたまるか」

「なら、このまま捕まえておこう」

笑みの形にした唇を鎖骨に落とす。舌全体で舐り最後に歯をたてると、土方は僅かに身動いで甘い息を漏らした。

「おめでとう、十四郎」

「…んっ…」

尖らせた舌の先を下降させながら、道を拓くように着流しをはだけさせていく。抵抗らしい抵抗を見せず、土方はその行為を受け入れた。

互いに夢中になる二人の頭上で、天体は休むことなく移動を続けていた。







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