話3
□三人寄れば
2ページ/3ページ
高杉が連行されたのは、崩壊寸前のビルディングの一室だった。
「兄弟にしちゃ似すぎてんなァ」
「そうだろうな」
崩落してきたのであろうコンクリートの塊に腰を下ろし、高杉は薄く笑った。目の前に立つ年長の少年が僅かに頷く。
先ほど高杉の後ろを取ったこの少年は、顔を見ればあの男と瓜二つだった。年の頃は十代の後半に入ったばかりというところか。
あどけなさを顔に残しつつも、その雰囲気は年齢の一回り以上も成熟していた。不躾な高杉の視線を気にする様子もない。
「なあ、斬っていいだろ?こいつを生かしておいちゃ江戸の為にならねェよ!」
「ガキのくせによくわかってんじゃねェか」
「うるせェ!黙ってろ!」
刃先の照準を高杉の頸動脈に合わせたまま、「しい」が声を荒げる。睨み付けてくるその目の、瞳孔は完全に開ききっていた。殺意をギリギリのところで抑えているのだろう。まだ子供のくせに、人を斬るのには馴れているようだった。
「おこっちゃめー」
兄にそう訴えながら、「ろう」が高杉の座るコンクリートによじ登ろうとしてくる。苦戦していたので、抱き上げてそのまま膝に載せてやった。こうすれば簡単に斬り込んできやしないだろうという、打算の上の行為だ。なんなら人質に取ることも容易い。
そんなことは知らない子供は、嬉しそうに声をあげて笑った。
「テメェ…っ!」
「しい、刀納めろ」
「…くそっ、手懐けやがって…」
睨み付ける目はそのままに、しいは渋々といった様子で刀を下ろした。兄の言うことには逆らえないのだろう。
高杉がニヤニヤした笑みを向けると、怒りを堪えているのか、顔を真っ赤にして俯いた。
「先週のことだ。しょっ引いた天人に面倒な術をかけられた」
「は?」
突然始まった説明に高杉は思わず間の抜けた声を返す。それをかき消す勢いで、顔を上げたしいが大声を出した。
「とう!まさかこいつに!?」
「お前も、もう分かってんだろ?ろうがこんだけ懐いてる。俺らがどうあがこうが無駄だ」
「でも、こいつは敵なんだぞ!」
「いつまでもこんな状態でいるわけにはいかねェだろ。出張してるふりもそのうち限界がくる」
「…お前らは…」
似すぎた容姿、見た目とはアンバランスな雰囲気、不自然に分割されたような名前、天人の術。
そこから導き出される解答は一つだ。
「ああ。俺らは、土方十四郎だ」
土方の一部が、静かな声で肯定した。