話3

□三人寄れば
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高杉が連行されたのは、崩壊寸前のビルディングの一室だった。

「兄弟にしちゃ似すぎてんなァ」

「そうだろうな」

崩落してきたのであろうコンクリートの塊に腰を下ろし、高杉は薄く笑った。目の前に立つ年長の少年が僅かに頷く。

先ほど高杉の後ろを取ったこの少年は、顔を見ればあの男と瓜二つだった。年の頃は十代の後半に入ったばかりというところか。

あどけなさを顔に残しつつも、その雰囲気は年齢の一回り以上も成熟していた。不躾な高杉の視線を気にする様子もない。

「なあ、斬っていいだろ?こいつを生かしておいちゃ江戸の為にならねェよ!」

「ガキのくせによくわかってんじゃねェか」

「うるせェ!黙ってろ!」

刃先の照準を高杉の頸動脈に合わせたまま、「しい」が声を荒げる。睨み付けてくるその目の、瞳孔は完全に開ききっていた。殺意をギリギリのところで抑えているのだろう。まだ子供のくせに、人を斬るのには馴れているようだった。

「おこっちゃめー」

兄にそう訴えながら、「ろう」が高杉の座るコンクリートによじ登ろうとしてくる。苦戦していたので、抱き上げてそのまま膝に載せてやった。こうすれば簡単に斬り込んできやしないだろうという、打算の上の行為だ。なんなら人質に取ることも容易い。

そんなことは知らない子供は、嬉しそうに声をあげて笑った。

「テメェ…っ!」

「しい、刀納めろ」

「…くそっ、手懐けやがって…」

睨み付ける目はそのままに、しいは渋々といった様子で刀を下ろした。兄の言うことには逆らえないのだろう。

高杉がニヤニヤした笑みを向けると、怒りを堪えているのか、顔を真っ赤にして俯いた。

「先週のことだ。しょっ引いた天人に面倒な術をかけられた」

「は?」

突然始まった説明に高杉は思わず間の抜けた声を返す。それをかき消す勢いで、顔を上げたしいが大声を出した。

「とう!まさかこいつに!?」

「お前も、もう分かってんだろ?ろうがこんだけ懐いてる。俺らがどうあがこうが無駄だ」

「でも、こいつは敵なんだぞ!」

「いつまでもこんな状態でいるわけにはいかねェだろ。出張してるふりもそのうち限界がくる」

「…お前らは…」

似すぎた容姿、見た目とはアンバランスな雰囲気、不自然に分割されたような名前、天人の術。

そこから導き出される解答は一つだ。

「ああ。俺らは、土方十四郎だ」

土方の一部が、静かな声で肯定した。



 
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