話3
□未知なるものを暴く者
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陽が沈むのは確実に早くなった。
あの日とそう変わらぬ暑さの中に身を置いているのに、過ぎ去った時の長さに気付かされてしまう。
これまで、幾度の日没を迎えただろうか。
十までは数えていた。それから虚しくなって止めた。最近はなるべく夕陽を見ないようにすらしている。
あの男の訪れを、待っていないわけではない。
しかしそれは、寂しさや愛情からでは決してなかった。俺はただ、恨み言を言ってやりたいだけだ。
あいつのせいで、俺は知らなくてもいい自分を知ってしまった。
一生知らない方が幸せだったのに、まざまざと思い知らされてしまったのだ。
たとえば、背中を指先でなぞられるのに弱いことだとか。
「お、まえ……同じトコばっか触んじゃねェっ」
「あァ?なんでだよ、気持ちイイんだろ?さっきからビクビクしっぱなしじゃねェか」
「ざっけんな……ぅあっ……」
「くくっ……、イイ声だな、十四郎」
「うっせ、バカ……っ!」
「……たさん!」
「おわっ!……テメェ、急に近付くんじゃねェよ!」
「急にじゃありませんって。何度も呼んだんですよ?」
「…………」
「珍しいですね、俺の気配に気付かないなんて。なにかあったんですか?」
「なっ……!なんでもねェよ!ちょっとマヨのこと考えてただけだ!」
「本当に好きですねぇ……」
「そ、そうでもねェよ!」
「ちょっ!なんで殴るんですか!?」
「うるせェこのバカ!」
知りたくなかった。
本当に知りたくなんてなかった。
こうして逢瀬の記憶に浸ってしまう自分なんて。
終