話3

□未知なるものを暴く者
1ページ/1ページ



陽が沈むのは確実に早くなった。
あの日とそう変わらぬ暑さの中に身を置いているのに、過ぎ去った時の長さに気付かされてしまう。

これまで、幾度の日没を迎えただろうか。
十までは数えていた。それから虚しくなって止めた。最近はなるべく夕陽を見ないようにすらしている。

あの男の訪れを、待っていないわけではない。

しかしそれは、寂しさや愛情からでは決してなかった。俺はただ、恨み言を言ってやりたいだけだ。

あいつのせいで、俺は知らなくてもいい自分を知ってしまった。

一生知らない方が幸せだったのに、まざまざと思い知らされてしまったのだ。

たとえば、背中を指先でなぞられるのに弱いことだとか。





「お、まえ……同じトコばっか触んじゃねェっ」

「あァ?なんでだよ、気持ちイイんだろ?さっきからビクビクしっぱなしじゃねェか」

「ざっけんな……ぅあっ……」

「くくっ……、イイ声だな、十四郎」

「うっせ、バカ……っ!」




「……たさん!」

「おわっ!……テメェ、急に近付くんじゃねェよ!」

「急にじゃありませんって。何度も呼んだんですよ?」

「…………」

「珍しいですね、俺の気配に気付かないなんて。なにかあったんですか?」

「なっ……!なんでもねェよ!ちょっとマヨのこと考えてただけだ!」

「本当に好きですねぇ……」

「そ、そうでもねェよ!」

「ちょっ!なんで殴るんですか!?」

「うるせェこのバカ!」





知りたくなかった。

本当に知りたくなんてなかった。

こうして逢瀬の記憶に浸ってしまう自分なんて。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ