話3
□三人寄ればB
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静寂に満ちたコンクリート造りの部屋の中、高杉は俯いて目を閉じると、長い息を一つ吐いた。瞼の裏にはまだ光が残っていて、けれどそれも少しずつ消えていく。
予想よりずっと、ショックを受けていた。誰かを失って辛いなんて感情は、もう味わうことがないと思っていたのに。
あと二度もこんな思いをするのかと考えると、気持ちが暗くなる。
不意に着物の裾が引かれた。目を開けば、初めて会った時のように、ろうが高杉を見上げている。真ん丸とした黒い眼は、高杉だけを映してキラキラと瞬いていた。
「ちゅー」
「……ろう」
しゃがみこんで、小さな体を抱き締める。鈴が鳴るようにろうは笑った。擦り寄せた頬は柔らかく、少し高めの体温が心地好い。この子供はまだ、人を憎むことも殺すことも知らないのだ。
なんて、尊い存在なのだろうか。
……失いたくない。
そう思う反面、土方に、そして既に失ってしまったしいに焦がれる気持ちも強く在る。相反する気持ちのせいで高杉まで分裂してしまいそうだ。
「…………」
「すきなのー。ちゅーたくさんするのー!」
高杉の心中を知らぬろうは、無邪気にそう言って、高杉の腕の中でまた笑う。
「そうか……、そうだな。たくさんしような」
諦めて、高杉も笑みを返した。いつもするような皮肉めいたものではなく、愛しいものを見る人の優しい顔で。
そして一度きりの、最後で最初のキスを、幼子の唇に与えた。