話3

□まずい状況
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一度吸わせろとあんまり五月蝿いから、嫌がらせで吸いかけの煙草を渡してやった。潔癖なこいつは、野郎の吸いかけなんて絶対に拒むと思ったからだ。

しかし高杉は少しも躊躇う様子なくフィルターを唇に挟み、

驚いた俺が制止の声をあげたのと同時、

吸い込んだ煙に思いきり噎せた。




聞いているこっちの呼吸器まで痛くなるような激しい咳が、暫く続く。

体を折るようにして全身でゲホゲホとやる高杉の手から煙草を取り返し、空いている手で背中をさすってやった。

「っ……、あー、不味ィ。こんなもん吸う奴の気が知れねェ」

涙目になった高杉が嗄れた声で呟く。

「……おまえ、すげェ顔色悪ィけど」

「咳のしすぎで体力が……死ぬ……」

「死ぬって、弱すぎだろ?!だ、大丈夫かよ」

「……人口呼吸プリーズ」

「は?」

倒れるようにのし掛かってきた高杉の顔は本当に蒼白で、唇なんかほとんど紫だった。

しかしそんな観察が出来たのは一瞬で、あとは、キスされた衝撃で何も見えなくなる。

細くて軽い体を無理に引き離すことも出来なくて、重力の導くままに寝転がった。

あれ、俺、男に押し倒されてる……?え、つーか、舌が……。

死にそうな顔をしていたことを忘れるくらい、高杉のキスには余裕があった。それどころか、なんというか、巧い。男同士じゃねェかとか、何で急にとか、そんな思考が別のものに塗り潰されていく。

これはまずい、非常にまずい。

何か他のことを考えねェと……、マジ、何でこんなことに、あ、煙草……。

左手に持った煙草がじりじりと無意味に燃え続けていた。指先に熱源が近付いてくるのがわかる。体と水平になったアスファルトに擦り付けて消して、向こうに放った。

高杉の舌は俺の口の中で気儘なようで的確な動きを続けている。一瞬の現実逃避などなんの役にも立たなかった。

これ以上は本当に、俺の中の何か大事な線が焼ききれてしまう。

そう思ったとき、ようやく高杉の顔は離れていった。さっきまで死人のようだった顔は見違えるほどに血色が良くなっている。

「ありがとよ、生き返った」

「な……、おま……、え?」

「なんだ、顔色悪ィな。人口呼吸が必要か?」

「い、いるかァァァァァァァ!」

おそらくは涙目になった蒼白な顔で、俺は余力のかぎり叫んだ。





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