話3

□048 たどり着けば、あなた
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川と平行して伸びる歩道。陸地と水場の境には等間隔に木が植えられている。すぐ横の通りを大型トラックが轟音をたてて走り抜けていく。巻き上がる砂埃と排気を、俺は全身に受け止める。光合成、大気汚染、そんな言葉が頭にちらつく。

清々しいほどの秋晴れの空の下、色づいた葉が散って舞っていた。

暇だから、ゆっくりと歩きながらそんな光景を眺めていた。

立ち並ぶ街路樹。

無数の枝が、川面になにかを求めるのように、それぞれ細く伸び広がっている。

何本もの何本もの、届かない手。そんな風に見えた。焦がれても届かぬ、切実さを感じた。

身動きの取れない街路樹が、切望し続けて止まないもの。

その正体を、知りたいと思った。

我ながら、らしくもないことを考えている。けれど、こういうどうでもいいことなら即断即決即行動。歩道から木々の埋まる土を飛び越え、欄干から身を乗り出して、覗きこんだ。

両手で握り締める鉄の欄干はひやりとしている。

川は緩やかに、ただただ流れ続けていた。伸びた水草を緩く揺らしながら。特にこれといって目に留まるものはない。まあ、そりゃそうか。

「あぶねェっ!」

「え……、っ!?」

切羽詰まった声に振り向くより早く、思いきり後ろに引っ張られて体勢を崩した。

視界が一瞬で切り替わる。

流れる川から、伸びる枝葉とその奥の青空へ。

そして、衝撃。

地面に直接打ち付けられたわけではないので、それほど痛みがあるわけではなかった。急な展開というか転回についていけない。少しの間、呆然と空を眺める。

「いってェ……」

俺と地面にサンドイッチされた男が呻いた。聞き覚えがある低音。鼓膜の震動が伝わったせいで、心臓が跳ねた。開けられたビックリ箱のように、勢いよく起き上がって数歩下がる。

「いのちだいじに」

上半身だけを起こした坂田が、らしくない真剣な顔で俺を見ていた。

自分の心音がやたらと五月蝿く、他の音が聞こえないほどだ。それでも坂田の声だけはちゃんと届いた。どうなってんだ俺の耳。

「……戦況見誤ってんぞ」

「え、だって飛び込もうと」

「してねーよ」

「んだよー、紛らわしいポージングしてんじゃねェっての」

「ふつーに川見てただけだろ」

「それにしちゃ身乗り出してた。中になんかあんのか?」

「それが分から……、いや、なんでもねェ。じゃーな」

言わなくていいことを口走りそうになった。まだ座り込んだままの坂田に背を向け、足早にその場から逃げ出す。

「っておい!約束忘れたのかよ!」

声が追ってくる。構わず進んでいたら、肩を掴まれた。

にげられない。

「今日2時に、待ち合わせてたろ?電話も繋がらねーから心配してたんだよ。もしかして、なんか怒ってんのか?」

「なんとなく、行きたくなくなったんだよ」

覗きこんでくる坂田から顔を背けるも、回り込まれてじっと見つめられた。やはり逃げられない。最後の手段で目蓋を落とす。木漏れ日がちらつく。

「嘘つけ」

ああ、なんでそんな中途半端に鋭いんだよ、馬鹿野郎。

いつの間にか風の音とトラックの走行音は再び鳴り出していた。大気汚染、光合成、大気汚染、光合成。心音はかき消される。息を吐く。息を吸う。手を伸ばす。届かないように、ほんの少しだけ。

「……嘘じゃねーし」

動けない俺の、精一杯。

指先に、温もりの気配だけが届いた気がした。






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