100のお題(1-40)


□001 その一歩がゆるゆると
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帰ってきたと思ったら、銀時は鞄を放り出し靴も脱がずに玄関に倒れこんだ。黒い鞄はチャックが閉まっていなかったらしく、携帯やら剥き出しのシャーペンやらが出てきて転がる。床に傷がつくじゃないかとかスーツが皺になるだろうとか、そんな小言はとりあえず溜め息の奥に仕舞って、土方は頭を掻いた。
革靴だけは脱がしてやると、銀時はもぞもぞ動いて足先までを廊下に収めた。しかしそれ以上は動かない。

「なんかあったのか?」

「俺、社会に必要とされてねェわ…」

「まだ二社しか受けてねーのに何言ってんだ」

銀時は俯せに倒れたまま顔も上げない。土方はしゃがみこんで、普段よりは幾らか整えられた天然パーマを撫でた。いつも適当に身支度を済ませる銀時にしては珍しく、今朝は髪のセットに随分時間をかけていたのだ。ワックスで少し掌がべたつくが、そんなことは気にせずにぺたぺたと撫で回す。

「だってお前はもう決まったじゃん」

「早くから始めてたんだから当たり前だろ」

「…警察の彼氏がヒモか…」

「なに諦めてんだコラ」

いまだ上がらない頭をぱしりとはたいてやると、力なく投げ出されていた銀時の腕が急に動いて、土方の手首を握った。

「彼氏、の部分は否定しないんだ?」

さっきまでの落ち込んだ様子などはすっかり消え、銀時は嬉しそうな笑みを浮かべて土方を見上げている。変わり身が早いというか、バカというか。同棲して2年も経つというのに、何故今更そんな細かいところを気にするのだろう。

「…下らねーこと言ってないでESでも書け。推敲してやっから」

「その前に一発…!」

「盛ってんな!つーか皺になっからスーツ脱げコラ!」

「もう、そんなに銀さんの体が待ちきれない?」

「違ェェェ!」

のし掛かってきた銀時を押し退けようとするがどうにも敵わず、面倒になって抵抗の手を休めた。お望み通り一度発散させてやった方が良い結果を生むかもしれない。なんて考える土方は、実は結構銀時のスーツ姿が好きで。

片手でネクタイをほどく仕草。スーツなんてそう何度も着てやしないくせに、そんなのだけはやけに様になっている。骨ばった長い指がこれから自分にすることを思うと、土方の身体は自然に熱くなった。こうなれば、スーツが皺になろうが知ったことか。

「…終わったらちゃんとやれよ?」

「はーい!」

外したネクタイを放り投げ、銀時は嬉々として土方の服を脱がしにかかった。







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