高校生2

□少年の旋毛は何処を向く
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悪い知らせとしか思えないものを聞いたにも関わらず、俺は、不思議と冷静になっていた。

夢から醒めたように、足はちゃんと指定された場所へ俺を運んでいく。全身の感覚が冴え渡っていた。左右交互に固い廊下を踏みながら、生温い空気を裂き続ける。



まだどんな現実が待ち構えているのかは分からない。

それでも、俺は決めていた。

もう、間違えない。
絶対に土方を助ける。



「早く教えろ!土方に何かあったら責任取れんのか?!」

職員室の引き戸に手を伸ばした時、中から怒声が聞こえてきた。耳慣れた声だ。勢いよく戸を開けて中に入る。
廊下とは対極に、室内の空気は冷えて乾いていた。クーラーが効いているのが第一の理由だろうけど、それだけじゃない。

「い、いや…だから、個人情報を簡単に教えるのは本人の為にもならないというか…」

「ふざけたこと言ってんじゃねェ!」

研ぎ澄ました氷の剣を、力の限りに振るうような一声。今にも具現化して、辺り構わず切り裂いてしまいそうだ。それくらい、高杉の声音は真剣さを帯びていた。

「高杉!」

名前を呼びながら駆け寄る。
隻眼に怒りの炎を燃やす高杉が、睨むように俺を見た。冷たそうだと錯覚させるくせに、他の何よりも熱い青の炎。けれど、その眼が俺の心に火を移すことはなかった。

職員室中の教師が静まり返って成行を見守っている。俺の心も同様に、静けさを保ったままだった。冷静さを失っては、土方から遠退くばかりだ。

震える長谷川さんは、俺が現れたことでなおのこと不安になったらしく、今にも逃げ出してしまいそうだった。隣にいるはずの松平は不在で、俺らの話を聞いてくれそうな人は今この人しかいない。逃がすわけにはいかなかった。申し訳なく思いつつ、退路を断つように位置を取る。

努めて誠実そうな表情を作った。死んだようと言われる両の眼にありったけの思いをこめて、サングラスの奥を見据える。

「長谷川さん、あんたに迷惑をかけるつもりはねーんだ。責任はちゃんと取る。だから…」




 
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