高校生2
□少年の旋毛は何処を向く
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「おうおう、ガキが偉そうなこと言ってんじゃねーのォ」
「松平!?」
「先生つけろバカヤロー」
「痛っ!」
いつの間にやら背後に立っていた松平に、平手で頭を叩かれた。つーか職員室で堂々と体罰ってどうなんだ。本当にヤクザだ。
「ちょうどいらっしゃったんで、来てもらいました」
隣に立つ山崎が言った。事情は説明済みです、という言葉が早口に付け足される。
「ま、松平先生、あとはお願いします…!」
椅子を倒しそうな勢いで立ち上がって、長谷川さんは走って職員室を出て行った。室内の張り詰めていた空気が少し緩まる。たとえヤクザにしか見えない暴力教師だとしても、やはり松平の信頼は厚いのだろう。
俺も正直ほっとしていた。この男なら分かってくれる、そんな確信がある。
右足の踵を軸にターンして、松平と真正面から向き合った。背筋を伸ばし、息を吸う。
「松平先生、教えてください。何かあっても俺らでちゃんと対処します!」
90度に腰を曲げて頭を下げた。お願いします、と山崎と高杉の声が続く。
一瞬の間。
「……お前らみたいな世間知らずのガキに、一体何が出来る?」
降ってきた声は、いつもの人を小バカにしたような調子ではなかった。それよりひどい、心の底から蔑むかのような、低い声。
一瞬、頭に血が上りかける。
「テメェっ!」
「待て、高杉!」
松平に掴み掛かろうとする高杉を制して、もう一度頭を下げた。いくら蔑まれようと、傷つけられようと構わないと思った。それで土方が救えるなら、むしろ望むところだ。
また、少しの間が空く。
松平が、ゆっくりと息を吐いた。
「自分たちだけで解決出来るなんて、思い上がるんじゃねェぞ」
がたりと、安物の椅子が鳴った。それから引き出しを開く音、分厚い本かなにかを机に載せる音、ページを開く音、ペンを走らせる音。
床を見つめたまま一連の流れを聴力だけで追っていると、ふいに柔らかく頭を叩かれた。
顔を上げる。目の前には住所と、二つの電話番号の書かれたメモ紙が差し出されていた。
「下のやつは俺の携帯番号だ。何かあっても、なくても、すぐに報告しろ。じゃねーとプールに沈めるからな」
「「「ありがとうございます!」」」
今日何度目かのお辞儀をして、俺達は冷えた職員室を飛び出した。
続
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