高校生2
□目覚め
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旦那が進路の件で居残りをくらったので、俺は図書室の自習スペースで勉強をしながら待っていた。
期末試験が近いからか利用者は多く、ほとんどの席が埋まっている。文字を書き付ける音、ページをめくる音、そして時おり咳払いの音がする以外は、とても静かだ。余計な音をたててはいけないという緊張感すらある。
俺も周りの生徒と同じように、静かに参考書の問題を解いていた。けれど頭の大部分が考えているのは、土方さんのことばかりだ。
あの男と土方さんに血の繋がりはなかった。戸籍上も親子ではなく、言うなれば赤の他人だ。
男は、交際していた土方さんの母親にある日突然子供を押し付けられ、育てる代わりに幼い土方さんを金儲けの道具にしたのだという。
あの部屋からは、写真や雑なモザイク処理を施されたビデオが大量に出てきた。それらを販売したり、土方さんに体を売らせることで、長年収入を得ていたらしい。
あの日土方さんを連れ去ったのは、旧作の売れ行きが悪くなり貯金が尽きてきたからだそうだ。
その辺の事情をワイドショーや週刊誌が嬉々として報道し、結構な話題になった。しかし数日後に大物タレントの暴力事件が起こると、世間の関心はあっさり移っていった。
けれど、もちろんゼロになったわけではない。どこから嗅ぎ付けたのか、俺たちに取材をしようとする奴等もいる。校門で待ち伏せされたこともあるが、松平先生のおかげでそれほど不快な目には遭わずに済んでいた。
土方さんは、まだ入院中だ。
俺たちは毎日お見舞いに行っている。
けれど、まだ一度も土方さんの声を聞けていなかった。目と目が合うことすら、ない。
「終わったぞー!」
自習室の静けさが、開かれたドアの音と声で消えた。ほとんどの生徒が迷惑そうに顔を上げるが、訪れた人物を確認した途端に伏せられる。
俺は手早く荷物をまとめ、先程までとは違う緊張感に満ちた部屋を出て行った。