高校生2

□目覚め
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受付で入室の手続きを済ませていると、顔見知りになった看護師が近付いてきた。

「今日も、駄目だったわ」

時候の挨拶をするように自然で、けれどやや残念そうな声音。予想していた言葉に、俺は無言で頷いた。

看護師は励ますような笑みを浮かべ、簡単な別れの言葉を告げて去って行く。

記入を終えた用紙を提出し、俺は看護師とは逆方向へと足を踏み出した。





特殊なケース故に、土方には個室が与えられている。

ノックをしても返事がないのはいつものことなので、少し待ってから勝手に引き戸を開いた。

少しクリームがかった色の壁紙に四方を囲まれた部屋。広すぎも狭すぎもしない空間の奥に、白いベッドが一つある。

備え付けの棚の上に鞄を置き、ベッド横に並んだ椅子のうちの一つに腰を下ろした。この左端の席には、いつもなら坂田が座っている。俺が一人で来るのは、初めてだった。

「今日も、食わなかったんだってな」

俺の言葉に返事をすることもなく、土方はぼんやりと天井を見ている。あの日から、ずっとこうだ。なにも見ず、なにも語らず、脱け殻のように、ただそこに在るだけ。食事もとろうとしないその痩せ細った腕には、点滴の管が伸びている。

せっかく多少は人間らしい体つきになってきたというのに、あっという間に出逢った頃と変わらぬ状態になってしまった。否、食べようという意思があった分、あの時の方が余程マシか。

「なァ、何で食わねェんだ」

「…………」

答えはない。

「土方」

見向きもされない。

「なんか、言えよ……」

いつもは無駄に饒舌になった坂田が、反応の有無に関わらず喋り続ける。だから気付かなかった。

この静けさと虚無感を、俺は知っている。

お前の存在に価値はないと、言葉よりも雄弁な態度でもって示されるこの感覚。

「んだよ……、とうとう……、見捨てられたか……」

思ったことが、そのまま口から出た。唇の震えがそのまま言葉に伝わり、情けない音が響いて消える。否、震えているのは体全体だ。寒いわけではないのに、止まらない。

いずれこうなる日がくると、知っていた。知っていて、どうにか逃れようと足掻き続けてきたのだ。いつか俺が大丈夫になるまでは、と勝手なことを願いながら。

「土方……」

「…………」

土方は、やはり俺を見ない。

壁の時計が音もなく時を刻みつけていく。戻りも止まりもせず、無慈悲なほど正確に、ただただ時は過ぎた。心寒い場所に俺を置き去りにして。





嫌だ。

俺にはもう、耐えられない。

いつか強くなれると信じながら、その実、俺はすっかり弱くなっていた。

「……一人に……、しないでくれ……」

縋りつくことの無意味さなら知っていた。それでも、手を伸ばさずにはいられなかった。





 
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