話4
□今
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その目はどうしたのだと訊ねれば、大体知っているんだろう?ときたもんだ。
空の煙管を片手で弄びながら、高杉は試すような目で俺を見やっている。
「…………」
「そんなことより、もっと愉しい話をしろよ」
俺が次の言葉を吐く前に、話は強制的に仕舞いにされた。
同じ床に着いて居るのに、遠く隔てられている様に感じる。
「…………」
確かに、俺は知っていた。
何時如何なる時も外されぬ、その眼帯の奥の話を。
知っているからこそ訊きたかったのだ。
明かしてもらいたかった。
この男の口から、俺の耳に、伝えてほしかった。
「なあ、高杉」
「終わったことだ」
簡潔に、高杉は嘘を吐く。
優美な笑みで、涼やかな流し目を俺に向けて。
そのただ一言で、俺はもうそれ以上踏み込めなくなった。
「……そうかよ」
この関係が壊れ、「終わったこと」にされてしまうのが怖い。かといって、素直に受け入れることも出来なかった。つい素っ気ない返事をしてしまう。
「拗ねるなよ」
あやすように、高杉は俺の頭を撫でた。ひどく優しい仕草で、髪をじわじわと乱される。
「拗ねてねーよ」
その手から逃れるように、布団の中に潜った。仕返しのような、分かりやすい嘘。
「どォだかな」
そう呟いた高杉が、衣擦れの音をたてて追ってきた。瞬く間に、外気を纏った冷たい腕に抱き締められる。
身をよじって背を向けると、苦笑混じりの溜め息が聞こえた。
「つれねェな」
うなじにキスをされ、そのまま舌先で耳までなぞりあげられる。離れようにも、強い力で拘束されているせいで逃れられない。
「愛してる」
甘い言葉が、耳に寄せられた唇から囁かれた。それから耳たぶを食まれ、舐めまわされる。ツボをつくような舌の動きのせいで、体がびくびくと震えた。
「なァ、十四郎」
「ん、だよ……」
荒くなった息を吐きながら応えると、高杉は俺の肩に額をのせた。さらりとした前髪が肌をくすぐる。
「俺はな……、おまえと居る時だけは、過去も何も無いただの男でいてェんだよ」
低い声は真剣な響きを伴っていた。高杉にしては、珍しい声音だ。
「…………」
少し力の緩んだ腕の中で、俺は体の向きを変えた。暗くて顔は見えないものの、もう隔てられているとは感じない。
自然と口角が上がった。
「……ただの、エロ男だろ?」
「くくっ、違ェねえ」
そう言って笑いあい、じゃれるようなキスをした。
終
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