話4

□今
1ページ/1ページ


その目はどうしたのだと訊ねれば、大体知っているんだろう?ときたもんだ。

空の煙管を片手で弄びながら、高杉は試すような目で俺を見やっている。

「…………」

「そんなことより、もっと愉しい話をしろよ」

俺が次の言葉を吐く前に、話は強制的に仕舞いにされた。

同じ床に着いて居るのに、遠く隔てられている様に感じる。

「…………」

確かに、俺は知っていた。

何時如何なる時も外されぬ、その眼帯の奥の話を。

知っているからこそ訊きたかったのだ。

明かしてもらいたかった。
この男の口から、俺の耳に、伝えてほしかった。

「なあ、高杉」

「終わったことだ」

簡潔に、高杉は嘘を吐く。
優美な笑みで、涼やかな流し目を俺に向けて。

そのただ一言で、俺はもうそれ以上踏み込めなくなった。

「……そうかよ」

この関係が壊れ、「終わったこと」にされてしまうのが怖い。かといって、素直に受け入れることも出来なかった。つい素っ気ない返事をしてしまう。

「拗ねるなよ」

あやすように、高杉は俺の頭を撫でた。ひどく優しい仕草で、髪をじわじわと乱される。

「拗ねてねーよ」

その手から逃れるように、布団の中に潜った。仕返しのような、分かりやすい嘘。

「どォだかな」

そう呟いた高杉が、衣擦れの音をたてて追ってきた。瞬く間に、外気を纏った冷たい腕に抱き締められる。

身をよじって背を向けると、苦笑混じりの溜め息が聞こえた。

「つれねェな」

うなじにキスをされ、そのまま舌先で耳までなぞりあげられる。離れようにも、強い力で拘束されているせいで逃れられない。

「愛してる」

甘い言葉が、耳に寄せられた唇から囁かれた。それから耳たぶを食まれ、舐めまわされる。ツボをつくような舌の動きのせいで、体がびくびくと震えた。

「なァ、十四郎」

「ん、だよ……」

荒くなった息を吐きながら応えると、高杉は俺の肩に額をのせた。さらりとした前髪が肌をくすぐる。

「俺はな……、おまえと居る時だけは、過去も何も無いただの男でいてェんだよ」

低い声は真剣な響きを伴っていた。高杉にしては、珍しい声音だ。

「…………」

少し力の緩んだ腕の中で、俺は体の向きを変えた。暗くて顔は見えないものの、もう隔てられているとは感じない。

自然と口角が上がった。

「……ただの、エロ男だろ?」

「くくっ、違ェねえ」

そう言って笑いあい、じゃれるようなキスをした。









短編集BL

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ