話(連載)

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サングラスの内側で、万斉の目は険しい光を放っていた。黒い鏡面で遮られているから目の前の男には気付かれていないはずだ。その他の顔面の筋肉は微動だにさせていない自信がある。

しかし、不味いことになった。
店の扉の前にいるのは間違いなく件の二人であろう。まさか戻ってくるとは。

気取られないよう、最小限の動きでカウンター下に手を伸ばす。2つ並んでいるスイッチのうちの右側に指先を当てた。

面倒は避けたかったが、仕方ない。

他人から見れば既に面倒な事態なのだが、万斉にとってこれまでの流れは遊びのようなものだった。しかし、今となってはそうも言っていられない。

政府の人間に手を出して無事で済まされるわけがない。その辺の事情は重々承知している万斉である。
のこのこ入ってくる二人を大人しく差し出すのが最良だと言うことはわかっていた。

それなのに何故、自分の身に危険が及ぶのを承知であの二人を守ろうとするのか。

その問いに、もう答えは出ている。
至ってシンプルで、人に言えばきっと呆れられるような理由。

それはもちろん、面白そうだからでござろう?

万斉は思わず口の端を上げた。

目の前の男が眉をひそめる。
それと同時にドアが開いた。
男がそちらに顔を向けるより早く、万斉はスイッチを押した。

瞬間、店内はまっさらな闇に包まれた。
万斉以外の人間は僅かながら動揺し、身構える。
何一つ見えるもののない暗闇だ。

そんな張り詰めた空気の中で、万斉はサングラスを取った。はっきり見える視界の中で、男は銃を構えている。ほとんど実戦経験がないのだろう。同情を誘うほど、その手は震えていた。

血がざわめく。
無意識のうちに溢れる笑み。
日頃は思い出さない記憶が蘇る。

コートの袖口から取り出した鉄線を放ち、器用な動作で男の首に巻きつけた。そのままカウンター越しに締め付ける。
声帯も潰しているから声は聞こえない。静かなものだ。目を閉じると、自分が何をしているのかすらわからなくなる。

男は何が起こっているのか理解できていないようだった。鉄線を掴もうともがいているが、ぴったりと首に巻き付いているから手の入る隙間はない。このままなにもわからないまま逝くのがよかろう。それが互いにとっての幸せだ。

1人が自分を見ているのがわかった。この闇の中でも目が利くか。只者ではないと思っていたが、想像以上に面白い男だ。

せいぜい、楽しませていただこう。

手の中で男の生命の気配が完全に絶たれるのを待って、万斉はゆっくりと鉄線を回収した。
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