話(連載)

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小さな炎が、夜明けのまだ薄暗い室内に灯っている。
弱い風に揺られ、その火は大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。

「銀ちゃんひどい顔アル。もう年なんだから朝帰りなんてしてる場合じゃないネ」

赤い炎が少女の姿に変わり、銀時を出迎えた。半透明な体を宙に浮かせて、玄関先に仰向けに倒れこんだ銀時の上をくるくると回る。

「やっぱり、今日は何かあったんですか?」

先ほど銀時を迎えに来た新八も、心配そうに問いかけた。こちらも半透明な体でふわふわと浮いている。
銀時の熱っぽく赤らんだ顔に、微弱ながら心地よい風が送られた。癖のある前髪が僅かに揺れる。

銀時は目を閉じて、胸の上の温かみと顔に当たる涼しい風を受け止めた。

暖房器具にも冷房器具にも決してない優しさが、精霊にはあるのだ。
当惑と苛立ちと暴力とアルコール、そんなものが入り混じって出来た胸中の澱みが、少しずつ消えていくのがわかる。

こいつらを失わずに済んで良かったと、安堵の息を大きく一つ吐いた。

「銀ちゃん酒臭いアル!」

上空を舞っていた神楽が急に冷たく吐き捨てて、銀時から離れた。
新八が笑って、その息を含んだ空気を捕まえる。そして神楽を追うようにその風を回した。

「やめろヨ!天パ菌がうつるアル!」

「お通ちゃんの歌聴くの邪魔したお返しだよー」

二人はもう銀時のことなど忘れたかのように、部屋をあちこち飛び回って遊び始めた。
やっぱ前言撤回かも、と銀時は軽く傷ついた心に思う。

それでも、無邪気な二人の姿は銀時を和ませてくれた。

玄関に寝転んだまま、炎と風の姿に戻った神楽と新八を眺める。いつの間にやら、神楽が新八を追いかけるような格好になっていた。いつものことだ。

抵抗する新八の風で、神楽の火は一層大きくなる。それでも蝋燭の火より少し大きい程度だ。けれどいつ何に燃え移るかわかったものではない。

今度ボヤを起こしたら追い出すとお登勢には脅されている。そうなれば、自分たちは一体どこに行けばいいのだろうか。

「おーい、家燃やすんじゃねーぞ」

「「うるせー酔っ払い」」

聞き分けのない精霊だよまったく、そう小声で悪態をつく。しかし二人が人間の姿に戻ったので安心した。

なかなか終わらない鬼ごっこを眺めながら、銀時はそのまま眠ってしまった。
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