話(連載)
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「くそっ…!」
あらゆるシステムが次々とシャットダウンされていく。
管理部の者たちは何をしているのか。端末しか持たない伊東には何の処置をすることも出来ない。死んでいく液晶をただ悪態ついて眺めるだけだ。
歯痒さに顔を歪め、爪を噛む。これは間違いなくサイバーテロだ。厳重に守られていたはずのメインシステムに潜り込み、しかも堂々と政府に喧嘩を売ってくるとは。そんなことの出来る人間は一人しか思い浮かばない。
しかしこのタイミングとは、少々出来すぎていやしないだろうか。
これまで沖田と近藤を捉えていたMotherとの通信も完全に途絶えている。おそらく全機能が強制的に終了させられたのだろう。他の全ての衛星も同様だ。まったく、舐めた真似をしてくれる。
今は何の役にもたたなくなった液晶端末を畳に置いた。眺めていたところで苛立ちが募るばかりで良いことはない。どうせ暫くは復旧しないはずだ。
胸元に入れていた緊急用の携帯電話が鳴った。メインシステムからは独立しており、今は唯一の通信手段だ。小さなディスプレイには管理部の長の名が表示されていた。
「まんまと、やられたようですね」
挨拶などは省略して嫌味を言う。
「良いテストになった!逆探知に成功したぞ!」
耳元の騒がしい声に眉を寄せ、伊東は携帯電話を少し遠ざけた。ここまで能天気だと苛立ちを通り越えて羨ましくすら思えるから不思議だ。
「付近の奴等には連絡をしておいた!システムの復旧には少し時間がかかるが心配するな!すぐ元通りだ!武市の奴も捕まる!」
矢継ぎ早の大声が続いた後、伊東が言葉を返す間もなく電話は切られた。相変わらず自分本意でシステムにしか興味のない男だ。
「逆探知システム、うまく働いたようですね」
「あと三日早ければ武市も捕まりはしなかっただろうに」
まったく、素晴らしいタイミングだ。伊東は嘆息する。あの忌まわしい子鼠にはこれまで散々邪魔されてきたのだ。あいつを捕まえればもう政府にサイバーテロを仕掛けるような人間はいなくなる。これでシステム開発への予算を武器の購入や人件費に回すことが出来る。
テロを起こされ捕捉相手を見失ったことは不快だが、システムが復旧するまでにそれほど遠くへ行けるわけでもない。どうせ追っ手が来ないことに安堵している頃だろうし再び捕捉するのは容易いはずだ。
化け物の方もすぐに見つかるだろう。あの狭い街に潜んでいるならばしらみ潰しに探せばいいだけだ。なんならシステム復旧後に人員を増やしてもいい。この流れに乗って一気に片をつけてしまおう。
「少し、散歩に行ってくるよ。丁度良い休憩時間だ」
篠原に告げ、伊東は障子戸を開く。空は見事な晴天だ。高く昇った太陽に祝福されているような、そんな珍しい気分を味わった。