話(連載)
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ぴしゃりと乱暴に戸を閉めた銀時は、何か恐ろしいものでも見たような顔をしていた。
家賃の催促でも来たのだろうか。怒った時の大家の顔は、新八にとってこの世で二番目に怖いものだ。
けれど今月分は一昨日奪うようにして持っていたはずだった。もちろんそれ以外にも彼女を怒らせる原因は幾らでもある。それで何度恐怖体験をしたことだろうか。
とばっちりが来ないといいけど、冷や汗を垂らす銀時を見ながらそんなことを思う。
「どしたアルか?」
「またなんか仕出かしたんでしょう?」
「いや違う、ふ、二日酔いのせいで幻覚見ちまった…」
「幻覚って…実際戸は鳴ってたじゃないですか」
大人のくせに往生際が悪い。鍵を閉めた戸を更に押さえているくせに、幻覚ってことはないだろう。しかし自力ではこの戸を開けられない新八に外の様子を確認することは出来ない。
すると再び戸が鳴らされた。びくりと銀時が身を強張らせる。幻聴などではない。ならばもちろん向こう側には人がいるはずだ。
「本当に、どうしたんですか?」
「…変な化物…」
「は?」
眼鏡の内側で両目を丸くする。即座に階下の猫耳従業員を想像した。しかしいくらなんでも今さら脅えやしないだろう。怖いというよりは気色悪いに近いタイプだし。
だとすれば本当に、なにか自分達の知らない未知の化け物がやってきてしまったのだろうか。
最強の妖とまで言われた種族の生き残り、それが銀時だ。その男をここまで過剰反応させるということは、相当の者に違いない。
「ど、どうするんですか?」
新八の声も緊張を帯びた。
「さっさと開けるネ、丸焦げにしてやるヨ」
「効かない相手かもしれないんだよ!?」
「そうだぞ!何かよくわかんねェけど凄い化物に違いねーからな!」
男二人に阻まれ、火の精である神楽は不服そうに頬を膨らませた。もともと戦闘的な種族だから、こんな守りの体勢は性に合わないのだろう。そのうち新八や銀時ごと燃やしかねない。
焦る新八を追いたてるように三度戸が鳴らされた。
「どどどどうしましょう?」
「今夜は化物の丸焼きアル」
神楽はすっかり火の姿に代わり戦闘モードだ。いや、食欲全開モードと言った方が良いかもしれない。
赤からオレンジに変わった炎は温度の上昇を示している。やる気満々だ。まずいことになった。前も怖いし後ろも怖い。新八は小さな体を震わせる。
またまた戸が鳴った。音の強さは一度目のものから変わらない。気の長い化物だ。これだけ待たせているのに、というかおそらくこの会話も聞こえているだろうに、なんで呑気に待っていられるのだろうか。
やはり相当に強い者なのかもしれない。
「銀さん…!」
「銀ちゃーん」
「よ、よし…お前ら準備しとけ。三人がかりならなんとかなんだろ」
「よっしゃァァァ!」
「大丈夫かなぁ…」
新八も一応風の姿に戻る。
「よォし、三、二、一!」