話(連載)

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「いいけどよ、狭いぞ?ここ」

「ごめん。ほんと、助かるよ」

「なぁに、政府にゃ俺もムカついてんだ。協力するさ」

そう言って剃りあがった頭を撫でる幼馴染みに、山崎は何度も繰り返しお辞儀をする。なにせ原田がノーと言えば、既に重犯罪者となった自分達には行き場などなかったのだ。事情を隠して他人を巻き込むわけにもいかない。

原田は隣街との境で古本屋を営んでいる。娯楽の少ないこの街の生活を潤す、数少ない店のうちの一つだ。
当の店主がまるで本に関心がなく、値段もジャンルもてんででたらめなのだが、むしろそれが飽きないと評判だった。山崎の宿に来る客もよくここで本を買ってくる。

幸い開店時間の直前だったので、駆け込んだ山崎達が客に目撃されることはなかった。
原田に招かれ、雑然とした薄暗い店内を抜けて奥の部屋に入る。

「全員座れるかなあ…」

「土方ァ、膝に乗るか?」

「乗るわけねーだろ!」

「ではまた子は拙者の股の間に…」

「ぶち殺されたいっすか?!」

「あの、電源お借りしてもいいですか?」

「どうぞ。おい山崎、店戻るから勝手にやってくれ」

「わかった、ありがとう」

ガラス戸が閉まり、その向こうでは馴染みの客がやって来たのか挨拶を交わす声が聞こえた。

通された部屋は六畳ほどの和室だ。小さなちゃぶ台と小さな食器棚だけが据えてあり、狭く簡素な台所と一繋がりなっている。朝食に使ったらしい幾つかの食器が流しに置いてあるのが見えた。
襖を挟んだ奥の部屋には万年床が敷かれていることを山崎は知っている。原田は数年前からここに一人で暮らしているのだ。

肩を寄せあうようにしてちゃぶ台の回りに六人で座る。
武市が小型のコンピュータらしきものを取り出して机上に乗せた。小さく起動音が響く。

「さてさて、これからどうしましょうかね。また衛星も動き出したようですし…」

「振り出しに戻ったじゃないっすか!」

「少しは前進したでござる」

「直線にして一キロくらいか」

「ここんとこよく走んなァ」

「出来ればこれっきりにしたいです…」

店内に聞こえないように声を潜めつつ意見を交わしあう。合間に武市がキーボードを打つ音も入り込んでいた。

「何してるんすか?」

「本当の攻撃はこれからなんですよ」

「そりゃ面白ェ」

「あの、ここも逆探知されるってことはないですよね…?」

「ええ。今のシステムでは永遠にあの宿しか探知出来ませんよ」

「それも困るんですけどォォォ」

「うるせェ!」

悲痛な叫びをあげた山崎は隣の土方に殴られた。
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