話(連載)

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続々とシステムが復旧していく。大量のコンピュータが端から順々に立ち上がっていく様は壮観だった。起動音の重なりあいも、音楽を奏でているかのようで小気味良い。

部屋の中央に仁王立ちしている自分を避けながら、職員たちが右往左往して復旧作業に追われている。これほどのテロは予想していなかったのだから当然だろう。天才は我々凡人の予想の斜め上を行くものだ。

完全にしてやられたというのに、胸のうちにあるのは悔しさよりも楽しさだった。武市は取り逃したが、それはこちらの落ち度ではない。兵が軟弱だったのだろう。逆探知システムが正常に働いた、それだけで充分だ。

もう少しでシステムは全て復旧する。そうすれば武市が捕まるのも時間の問題だろう。彼と早く話がしてみたい。出来ればここの開発室の一員として特別に迎え入れられれば。

この世の全てを、システムで支配したい。それが自分の積年の夢だった。しかし我欲のためでは決してない。

こんな血で血を洗うような野蛮な世の中から、人間は一刻も早く脱しなくてはならないのだ。このままでは奪い合いや殺し合いの果てに、人類は滅亡するに違いないから。

そのためには、もっとスムーズでスマートでクリーンな世界を創るしかない。公平な分配、犯罪の抑止、安全な電子機器の普及。そのためには自分と彼の頭脳が必要不可欠だ。

職員たちが口々にカウントダウンを始めた。マザーコンピュータが立ち上がるまであと十秒だ。

目を閉じて、その時を待った。



 
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