話(連載)
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「なんか見掛けねぇ奴等が外をうろついてる、多いぜ」
引き戸が僅かに開き原田が小声で告げると、部屋に居た全員の緊張感が高まった。
この場所が嗅ぎ付けられたのだろうか。また武市がやらかしたのでは、と山崎はちらり疑いの眼差しを向ける。
「え…衛星は死んでるんですよね…?」
「また逆探知されたんじゃないんすか!?」
「結構派手に移動してましたからね、そのせいですよ。まぁ皆さんの腕があれば切り抜けられる筈です」
淡々と言う武市は既にパソコンをしまい、逃げる準備が整っている。
他の面々は臨戦態勢らしく、皮膚に痛みを覚えるほどの緊張感が狭い部屋中に満ちていた。
隣の土方がジャケットの胸元に片手を差し入れている。銃でも携帯しているのだろうか。闘っている姿を見たことはないが、賞金稼ぎと言うからには何かしらの武器を扱うには違いない。きっと、戦闘する姿も美しいのだろう。
「おい、ここに指名手配犯が入ったという情報があったんだが」
薄い戸を隔てた店内に、幾つかの足音と低い男の声が聞こえた。
これでは原田を巻き込むことになってしまう。思わず立ち上がろうとした山崎の肩は、土方に押さえられた。目配せだけで、動きを封じられる。そう、自分はどうしたってこの人には逆らえない。
しかし幼馴染みが自分のせいで危機に瀕しているのを見過ごすことは出来なかった。山崎が尚も動こうとすると、土方の手が諌めるように肩を軽く叩く。
「任せろ」
心を読んだのかとも思えるようなタイミングで、土方が囁いた。
「見ての通り、客は今あんただけだ」
「奥に部屋があるだろ、見せろ」
「断る。ここは古本屋だ。モデルルームじゃねェんだよ」
「テメェ…ぶっ殺すぞ!政府から許しが出てんだよ、匿う奴も殺していいってなぁ」
そうだそうだ、と威圧的に言う声が聞こえる。一体何人いるのだろうか、少なくとも片手には収まらない気がした。これでは本当に原田の身に危険が及びそうだ。
隣の土方を見ると、その端正な作りの横顔にはたしかに笑みが浮かんでいて、状況とのミスマッチなど忘れて一瞬見惚れた。
「五秒やる。その間に退かねぇなら殺すぞ」
「高杉」
「わァってるよ」
土方と高杉の纏う空気が変わったのが山崎にはわかった。それはなんというか、思わず赤面してしまいそうになるほど官能的で…
誰かが唾を飲む音が聞こえた。否、それは山崎自身の出したものだったかもしれない。
「5、4、3、2…」
2、と向こうで男が言うのと同時に、閉まっていた戸を土方が蹴飛ばし、二人は目にも止まらぬ速さで部屋から飛び出して行った。