話(連載)
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「それで、何をお困りなんですかコノヤロー」
「か、体が痛いのだが…」
「銀ちゃん、ヅラが可哀想アル」
「大人げないですよ」
『離してあげてください』
獲物を捕らえる虎のような速さでこの敷地内に辿りついた銀時は、その勢いのまま桂に飛び掛かり、現在寝技を仕掛けていた。綺麗に決まった足四の字固めの周りで、精霊たちは口々(あるいはプラカード)に桂を解放するよう呼びかける。桂は痛みに顔を歪め、地面を何度もタップしていた。
「ったく。下らねェ真似しやがって」
「すまん!だが、本当にお前の力が必要なのだ!今こそが奴等を倒す好機!いたたたっ!」
なんとか寝技から解放された桂が今度は頬を思いきりつねられて悲鳴をあげる。
「寝言は寝て言え」
「俺は本気だ!」
赤く頬を腫らした桂の顔は真剣で、退く気などさらさらなさそうだった。それに姿こそ建物に隠れているが、無数の殺気だった人間の気配が銀時たちを取り囲んでいる。拒否して帰るなら襲いかかってくるかもしれない。人間が何人束になろうが負ける気はしないが、問題は銀時自身の理性がどれだけ持ち堪えられるかだった。正直、新鮮な血の臭いを嗅ぎでもしたら、喰らってしまう自信がある。
あの我を忘れるような空腹を感じてから、どうも本能が鎮まりきらないのだ。
「銀ちゃん、とりあえず話くらいは大人しく聞いてやれヨ」
「そうですよ、桂さんも無理強いするような人ではなさそうだし」
神楽と新八が銀時の周りを浮遊しながら説得してくる。わざとらしく溜め息をついて見せた後、銀時は仕方なく頷いた。どうせ無理に連れて行こうとしたって、この頑固なアホ二人はテコでも動かない。それではわざわざここまで来た意味がなかった。
こんな時は長期戦に持ち込むのが一番で、そのうち神楽の熱も冷めるはずだし、そうなれば新八が空気を読んでうまい断りの言葉を探すだろう。遅くとも夜には三人であの家に帰れる。
「茶菓子くらいあんだろーな」
「もちろんだ!」
せいぜい甘味で腹でも満たしてやる。そんな銀時の考えなど知らぬ桂は、スキップでも始めそうな軽やかさで三人を長屋の一室へ誘った。