話(連載)

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「本当に大丈夫…?」

「おう、商工会の奴等が来てくれるからな」

「迷惑かけてごめん」

「気にすんな。それより、気を付けろよ」

「うん、ありがとう」

「行くぞ」

線の細い男の肩に担がれて、長い付き合いの友人が手を振りながら去っていく。一団の走るスピードは速く、すぐにその姿は通りの角を曲がって見えなくなった。なんともシュールで、呆気ない別れだ。いずれこんな時が来るとは思っていたが、原田の想像の中ではいつも去っていくのは自分の方だった。山崎は宿に残り、あの少し頼りない笑みを浮かべながら手を振るのだろうと。

店内に戻ると、召集をかけた三人が既に揃っていた。

「派手にやったな」

「血がいっぱいじゃない。靴が汚れちゃう」

「武器はバレてないですか?」

「おう。それどころか、増えたくらいだ」

本棚の最上段にはこれまでに手に入れたライフルや銃が隠してある。原田は証明するように分厚い本を数冊抜き、その奥から布に巻かれた小銃を取り出して見せた。

足元の死体と共に転がっていた銃器類の数は、原田たちが何年もかけて集めてきたのと同じかそれより少し多いくらいで、血を拭って一ヶ所に置けばなかなか物々しい小山が出来上がった。質の良い政府支給品も混じっている。この思いがけぬ拾い物は、今後の戦況に良い影響を与えてくれるに違いない。

「ほんとに救援信号は鳴らなかったのね?」

「詳しいことはよくわからねェが、武市が奴さんのシステムを全部狂わせてくれたらしい」

「さすが伝説のハッカーですね」

これもまた、思いがけぬ幸運だった。瞬殺された男たちの中には政府の人間もいたが、彼らが死んだ時に鳴るはずの警報はハッキングによって無効化されていたのだ。そうでなければ今頃は、この店も武器も捨てていなければならなかったかもしれない。

それもこれも戦争とは遠い存在だった山崎がもたらした巡り合わせだ。こういうのを運命の悪戯とでもいうのだろうか。

「しかしグズグズはしてられないな。お前ら、人生に未練はないよな?」

バンダナを巻き直した藤堂が挑みかかるような笑みを浮かべる。

「なによ、今さら」

「あいつらと共倒れなら、命は惜しくありません」

「聞くまでもありゃしねェだろう」

二人の返事に続けて、原田も力強く頷いた。こんな良い風が吹いている時に動き出さないでどうする。原田たちは皆、この時をずっと心待ちにしていたのだ。
政府を、潰す。今こそが最大の好機。監視され虐げられ続けてきた民衆を代表して、自由と尊厳を勝ち取ってみせる。
四人は血の臭いに巻かれながら、固く握りしめた拳を突き合わせた。
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