話(連載)

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「紅桜の、使用命令が下りた!」

慌ただしく立ち働いていた職員達が、一斉にその動きを止めた。フロアの二階部分にいる鉄矢へと視線が集まる。

「だ、大丈夫なんですか…?まだ実験段階の兵器ですし…」

「倫理的な問題も解決していないのでは…」

想定の範囲内である言葉に鉄矢は頷く。紅桜の使用に際し、クリアしていない問題はたしかに多くある。解決の糸口すら見つかっていないものさえあり、実戦に導入するのは暫く先のことと考えられていた。政府の力があまねく行き渡りシステムも十全に働いているうちは無用の長物でもあった。

しかし、現状はこれまでと大きく異なる。たとえ不安要素に目を瞑ろうとも、賭けに打って出るしかなかった。実際、紅桜そのものにはそれほど問題はない。十分実戦に耐えられる強度や性能は保障されている。

ただ少し、使う人間に危険が伴うだけだ。

「時は一刻を争う!この機に乗じて反乱分子たちが一気に攻めこんでくれば国家の威厳が保てなくなる、そう判断したのだろう!たしかにコンピュータ復旧の目処が立たぬ今、頼れるものは他にない!総員、準備にあたってくれ!」

職員達は不安げではありながら、どこか興奮した顔つきで頷いた。使用者に危険があるとわかっていても、自分達が作ったものの動くところを見たいのが技術者というものだ。それがこの世の最先端を行くハイテク兵器であれば尚更。

部屋の移動を始めた職員達を見送り、鉄矢はこれから見ることの出来るであろう光景を想像して身震いした。



 
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