話(高校生連載)

□新年とティーンな僕ら
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初日の出は6時51分に昇る、と振袖姿の女子アナ。これからヘリに乗って実況中継をするらしい。

まだ酔っ払っている坂田が「初日の出見に行くか?」と言って、誰の返事も待たずに深緑色のダウンを着込み始めた。

「たりィ」

ソファにふんぞり返った体勢のまま額に皺を寄せる高杉。

「早く準備しなさい?」

その顔を覗き込んで坂田は気持ち悪いほど優しい声を出す。
俺は床で寝転がって眠る山崎を起こすべく、その肩に手をかけた。

「退け酔っ払い」

「あぁ?お前、行かない気ー?」

酔っ払っている坂田はタチが悪い。怒らせると手がつけられなくなる。

「…わァったよ」

それは多分、高杉が一番身を持って知っている。

「わかったから退け」

意見の通った坂田は上機嫌になり、紅白で流れていた演歌を口ずさみながらリビングの青いドアを開けて廊下へ出て行った。

「ったく、面倒臭ェ」

高杉は舌打して立ち上がると、ハンガーに掛けていた黒いコートを片手にその後を追う。

「山崎、起きろー」

「むりー」

「初日の出見に行くってよ」

「やぁだー」

寝起きの山崎も大分タチが悪い。完全に幼児退行している。

「しゃぁねェ…やるか」

うつ伏せで眠っている山崎を仰向けに転がし、腋に手を差し込んだ。

「起きねーのが悪ィんだからな」

そのまま思い切りくすぐると、山崎の悲鳴まじりの爆笑が新年の世界に響き渡った。




「なんかもう明るくね?」

うすら明るい空を仰ぐ。

「どうせ曇ってるんだから見えやしねェよ」

うんざりと言った顔で隣を歩く高杉が呟く。

坂田と山崎はぎゃぁぎゃぁ言いながら、深夜のうちに少しだけ積もった雪を掛け合っていた。
初詣客が踏み敷いたらしい雪の道はもはやスケートリンク状態で、気を抜くと滑る。ぱっと見大丈夫そうなところが一番危ない。坂田と山崎は何度も奇声をあげながらすっ転んでいる。
俺は滑る度に高杉に掴まって耐えた。

「お前よく滑らねーな」

「靴の出来が違ェんだよ」

どうやら雪道用に加工がしてあるらしい。さすがは坊ちゃん。
鼻の赤い高杉は、スカしていてもなんだか可愛らしく見えた。



着いた着いたー!とはしゃぎながら、坂田と山崎は長い石段を駆け上がっていく。その後を俺と高杉はゆっくりと歩いていった。

小さな遺跡を有したこの公園からは、俺らの住む街の東南側が見渡せる。4人で横一列になって、少しの間なにも喋らずに突っ立っていた。
並ぶ屋根は揃って白い。綺麗だ。それは良しとして、端まで雲に覆われている空に日の出は姿を見せそうにない。

寒い。

待っていても雲はほとんど動かず、空は見えぬまま、太陽はまさに雲隠れ。

「見えねーなー」

坂田が、ぼそり。

「そーだな」

あくびまじりに答える。

くしゅん、と山崎がくしゃみ。その後に鼻をすする音。

沈黙。

「気は済んだかよ」

高杉の冷え切った声。

「あー…済みました…」

すっかり酔いも醒めたらしい坂田が恥ずかしげに答えて、俺と山崎は同時に噴出した。



まぁ、今年も楽しけりゃいいな。などと、その時の俺は呑気に考えていたのだった。





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