話(高校生連載)
□掴む、手
2ページ/3ページ
にがさねーぞ
と
あのひとがわらった
………………………
「落ち着け馬鹿。意識はあんだろォが」
「でも…土方さん泣いて…」
「だからってテメェまで泣いて何になんだァ?」
「あ…、土方、わかるか?大丈夫か?」
「土方さん!」
「…声…で、けーよ…」
目を開くと、坂田と山崎の顔が目の前にあった。どうやら俺は椅子に寝かさているらしい。
「良かったー…」
山崎の情けない泣き顔が情けない笑顔に変わる。まったく、余計な心配しやがって。
「ごめんなさい、土方さん…」
また少し泣きそうになった山崎の頬を、起き上がってグーで軽く殴る。それは迷惑をかけたことへの謝罪でもあった。我ながらひどい表現方法だ。
「今回はこれでチャラにしてやる」
さすがに殴るだけではあんまりなので、そう言って口角を上げる。山崎はやっと安心したようにいつもの呑気そうな笑顔を見せた。
「飲め」
高杉の腕が伸びてきて俺にペットボトルを渡した。そういえば少し喉が痛む。塩分を取りすぎたのだろう。
「悪ィ」
開いた掌に、もうガラスの欠片は一つもなかった。
そんなもの、なくなったところでなんてことはない。もう一度拾いに行くようなもんでもない。そう頭の中で呟きながら、もう忘れてしまおうとミネラルウォーターを喉に流し込んだ。
「飯、食えそうか?」
一息ついた俺に坂田が聞く。あまり食欲はなかったが、早起きしてなにやら懸命に作っていた姿を思い出して、頷いた。
坂田が作ってきた弁当は、初デートの彼女か、と言いたくなるような可愛らしいラインナップだった。
甘い玉子焼き、たこさんウィンナー、プチトマトなどのカラフルなおかずに加え、仕上げは何やら顔のついたおにぎりだった。聞けばそれぞれ俺たちの顔に似せてあるらしい。あまりに似ていなくて俺ら3人で酷評したが、味はいつも通りうまかった。
そして俺の服が大体乾いたところで帰路についた。
ずっと炎天下で遊んでいた二人は肌が真っ赤になり、叩き合って痛がっている。俺も少し腕なんかがヒリヒリと痛んだ。
何度も山崎が心配そうに俺の顔を窺ってくるから、その度に腕や背中に思いきり張り手を食らわせてやった。
坂田がスーパーで買い物をして行きたいと言うので、山崎はそちらに付き合い、俺と高杉は荷物を持って先に帰ることになった。
俺が片手に一つ、高杉が両手に一つずつ。いつも働こうとしない高杉の、珍しい姿だ。
服はまだ湿っていて、海が強く香る。まったく焼けていない高杉と並び、西日に照らされた住宅街を歩く。帰省シーズンだからか、いつもより人通りが少なかった。
「土方ァ、やっぱ一回カウンセリング行けって」
「いいって」
「良くねェから言ってんだろうが」
「お前らといたらそのうち治る気がすんだよ」
「…そんな根の浅ェ問題じゃねェだろ」
「いやいや、三人がかりなら抜けんじゃねーの?」
「カブかよ」
「さすが読書家」
「冗談言ってる場合か」