話(高校生連載)

□掴む、手
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にがさねーぞ



あのひとがわらった

………………………





「落ち着け馬鹿。意識はあんだろォが」

「でも…土方さん泣いて…」

「だからってテメェまで泣いて何になんだァ?」

「あ…、土方、わかるか?大丈夫か?」

「土方さん!」

「…声…で、けーよ…」

目を開くと、坂田と山崎の顔が目の前にあった。どうやら俺は椅子に寝かさているらしい。

「良かったー…」

山崎の情けない泣き顔が情けない笑顔に変わる。まったく、余計な心配しやがって。

「ごめんなさい、土方さん…」

また少し泣きそうになった山崎の頬を、起き上がってグーで軽く殴る。それは迷惑をかけたことへの謝罪でもあった。我ながらひどい表現方法だ。

「今回はこれでチャラにしてやる」

さすがに殴るだけではあんまりなので、そう言って口角を上げる。山崎はやっと安心したようにいつもの呑気そうな笑顔を見せた。

「飲め」

高杉の腕が伸びてきて俺にペットボトルを渡した。そういえば少し喉が痛む。塩分を取りすぎたのだろう。

「悪ィ」

開いた掌に、もうガラスの欠片は一つもなかった。
そんなもの、なくなったところでなんてことはない。もう一度拾いに行くようなもんでもない。そう頭の中で呟きながら、もう忘れてしまおうとミネラルウォーターを喉に流し込んだ。

「飯、食えそうか?」

一息ついた俺に坂田が聞く。あまり食欲はなかったが、早起きしてなにやら懸命に作っていた姿を思い出して、頷いた。




坂田が作ってきた弁当は、初デートの彼女か、と言いたくなるような可愛らしいラインナップだった。
甘い玉子焼き、たこさんウィンナー、プチトマトなどのカラフルなおかずに加え、仕上げは何やら顔のついたおにぎりだった。聞けばそれぞれ俺たちの顔に似せてあるらしい。あまりに似ていなくて俺ら3人で酷評したが、味はいつも通りうまかった。

そして俺の服が大体乾いたところで帰路についた。




ずっと炎天下で遊んでいた二人は肌が真っ赤になり、叩き合って痛がっている。俺も少し腕なんかがヒリヒリと痛んだ。
何度も山崎が心配そうに俺の顔を窺ってくるから、その度に腕や背中に思いきり張り手を食らわせてやった。




坂田がスーパーで買い物をして行きたいと言うので、山崎はそちらに付き合い、俺と高杉は荷物を持って先に帰ることになった。
俺が片手に一つ、高杉が両手に一つずつ。いつも働こうとしない高杉の、珍しい姿だ。

服はまだ湿っていて、海が強く香る。まったく焼けていない高杉と並び、西日に照らされた住宅街を歩く。帰省シーズンだからか、いつもより人通りが少なかった。

「土方ァ、やっぱ一回カウンセリング行けって」

「いいって」

「良くねェから言ってんだろうが」

「お前らといたらそのうち治る気がすんだよ」

「…そんな根の浅ェ問題じゃねェだろ」

「いやいや、三人がかりなら抜けんじゃねーの?」

「カブかよ」

「さすが読書家」

「冗談言ってる場合か」
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