話(高校生連載)

□インソムニア
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気がつくと、俺はベッドに寝かされていた。青い遮光カーテンの閉ざされたうす暗い部屋には誰もいない。
枕元に置かれていた時計の文字盤を読むと、何故か少しも進んでいなかった。
夜中になったのだろうか。
上半身を持ち上げて伸びをすると、生きているという実感を久しぶりに持てた。頭からは鉛が消えて軽くなっている。

「やっと起きたか!」

「死んでんじゃねェかと思ったんだがなァ」

「おはようございます、土方さん」

ドアを開けると、明るい日差しの射し込むリビングには三人が揃っていた。
つまり俺は丸一日眠っていたのだろう。

「…ありがとな」

「なんか食うか?軽く素麺とかどーよ?」

「おう、頼むわ」

坂田は頷いて台所に行った。あんなみっともない姿を晒したのに普段通りに接してくれるのが有り難かった。

ただ待ってるのもしのびなく思われて、何か手伝えることはないかと台所へ向かう。

「なんか、やることあるか?」

「んー、じゃあ夕飯の仕込み頼んでもいいか?」

頷くと、坂田は軽く水洗いした青いまな板と柄の青い包丁を俺の前に置いて、その上に艶やかな紫色のナスを載せた。

「麻婆茄子つくっから適当に切っといて」

「おう」

青を背景にすると、ナスはそこに同化して溶けていくように見えた。眠れない時だったら見失ったかもしれない。
しかし今の俺の視界はやたらクリアだ。深く眠っている間に誰かが取り出して洗っておいてくれたのかもしれない。

「青って一番食欲を失せさせる色なんだってよ」

この間買ったばかりの銀色の鍋を火にかけながら、坂田が呟くように言った。

「嘘つけ。ここで飯食うようになって体重増えたぞ」

慎重にナスに刃を入れながらそう返すと、坂田は少し間を置いてから笑った。

カウンターの向こうでは山崎が高杉に赤いクッションを投げつけられている。
山崎は黄色を投げ返したが、キャッチされた挙げ句また思いきりぶつけられた。
多分あいつらの上下関係は一生変わらないんだろう。山崎には悪いが、見てるこちらは面白い。

「何年か後にはお前ら三人デブってるかもな」

同じように目の前の二人を眺めながら、坂田は他人事のように言った。

「バーカ、テメーも道連れだ」

坂田の横顔にそう宣言をしてから、手元の青と紫に視線を戻して真っ直ぐに刃を下ろしていく。
コトンという小気味の良い音がして、ナスが二つに別れた。



腹が出て、髪が薄くなって、それでもこうして同じ時間を過ごしていられたら。
想像もつかない未来のことを思いながら、小さくなったナスに改めて刃を乗せた。





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