話(高校生連載)

□紙ひこうき
1ページ/1ページ


真っ白な紙ひこうきたちは、弧を描いて背景の青を強調する。
あっちでは滑空し、あっちでは旋回し、はたまた交差したり、平行に走ったり。各々が意思を持ったように飛ぶ紙ひこうきたちは、見ていて飽きることがない。

けれどその乱舞は、俺たちの浅はかな抵抗のように刹那のうちに終わってしまうのだ。
束の間の、永遠。

諦めの悪い俺たちは、何度でも繰り返すけれど。



「なー、やっぱ俺のシルバー5号が一番じゃね?」

坂田が落下してきた紙ひこうきを右手につまんで言った。自慢気な言葉に合わない気だるげな表情と声はいつものことだ。

「盛者必衰。すぐに飛ばなくなりますよ」

山崎は大して飛ばない機体を幾つも作っては空に放っている。思い通りにいかないのが気に入らないのか、いつもよりテンションは低いようだ。

今日はほとんど風がない。
屋上にはプリントやらノートやらで作った紙ひこうきがばらばらと落ちている。いつの間にか結構な数になっていた。鉄製の柵を越えてどっかに消えていったものもある。

俺はさっきから、向こう端にいる高杉に当ててやろうと励んでいた。高杉は一人で座り込み、いつものように文庫本を読んでいる。そうやって格好つけて参加せずにいるのが、どうも気に入らなかったのだ。

しかし何度飛ばしても、俺の紙飛行機は途中で見当外れの方向に曲がっていってしまう。

何機目かわからない飛行機が、激しく進路を逸れて虚しく地に伏した。また駄目だったかと、溜め息ほどではない息を吐く。

しゃがみこんで地面に置いていたノートから1ページを慎重に切り離した。
綺麗に折り目をつけながら、紙っぺらを真っ直ぐ飛ぶような機体に整えていく。

息を止めて、右腕を高杉の方へと伸ばす。余計な力が入らないように…、最後は、自然な流れの中で指を離す。

紙飛行機が飛んで行く。
今度こそはうまくいきそうに見える。

しかし、やはり途中でおかしな方へと向かって、目的を果たすことなく、落下した。
あいつの周りには結界でも張られているのかもしれない。

もういっそ、この身ごと飛ばしてしまおうか。

「ほーらよっ、と」

そんな掛け声と共に、俺の顔の横を一体の紙飛行機が走り抜けて行った。
俺が何度ここから挑戦しても駄目だったのだ、どうせ届きはしないだろう。そう思いながら小さな白を見守る。

けれどその機体は、最後まで真っ直ぐの軌道から逸れることがなかった。徐々に高度を落としていき、見事に高杉の手元に着陸する。

「やっぱシルバー5号は最高だな」

坂田は俺の肩を抱いて、さっきよりも張りのある声で自慢気に言った。

向こう端の高杉は、紙飛行機を睨み付けるようにして見下ろしている。今にも握り潰すか破り捨てるかしそうだった。

坂田が俺から離れて高杉に歩み寄っていく。

「晋ちゃんも遊ばねー?」

「気色悪ィ呼び方すんじゃねェよ」

「そんじゃ高ぴょん」

「誰が改悪しろっつった?」

「助さんにしようぜ」

慌てて会話に割って入る。

「お前ら、センス最悪」

高杉は立ち上がって、坂田のシルバー5号を宙に放った。

白い紙飛行機は一直線に風を斬り、難なく柵を越えたあともまだ、俺たちの視力が及ばなくなるまで飛び続けた。

「さすがに飛びすぎじゃね…?」

作り手である坂田が呆けたように呟いた。

「幽霊が運んだんじゃねェ?」

高杉がニヤリと笑う。背筋に冷たいものが走った。

「「ん、んなわけねーだろ!」」

坂田と二人、震える声をハモらせる。後ろで、「そろそろ帰りましょーよ」と山崎が言った。





高校生シリーズ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ