話(高校生連載)
□従属の意思
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ライスとハンバーグはすっかり冷めてしまっていた。交互に口に運びいれては、おざなりな咀嚼で腹に落とす。
一度にこれだけの量の食事を取るのは久し振りだった。小学校の給食以来かもしれない。
正直もうとっくに腹は一杯だった。悲しいことに苦しいほどだ。胃の形は限界まで広がっていることだろう。
けれど残してはこの目の前の男の機嫌を損ねるかもしれない。ただでさえ、待たせているのだ。急いで完食しなければと、無理矢理に肉の塊を飲み込み続ける。
目の前の男、高杉は今のところ俺の食事の遅さを気にしてはいないようだった。食器は下げられコーヒーカップが置かれるのみとなったテーブルの前で、文庫本を読み耽っている。
カバーに覆われているので何の本かはわからなかった。カバーがついていなくてもきっとわからないだろう。教科書以外の本なんてろくに読んだこともない。
踊り場で出会い、お前を買うと言って名を尋ねた後、高杉はほとんど口を聞かなかった。時おり寒いだの不味いだのと、顔をしかめて文句を言う以外の事を話さなかったのだ。
聞きたいことが幾つかあったが、こちらから何か聞くのも憚られた。とにかく俺は飼い主の機嫌を損ねないよう、大人しく従うだけだ。
「無理して食うほどのもんじゃねェだろ」
「ふぇ?」
突然放たれた高杉の言葉に、白米を詰め込んだ口で答えた。
高杉が文庫本から目を上げて、間抜けな顔をしているであろう俺を睨む。慌てて咀嚼しきっていない米を流し込んだ。喉に詰まりそうになって、急いで水を飲む。
「行くぞ」
文庫本を鞄にしまい、高杉が伝票をつまんだ。
まだ完食には遠い皿が残っているが、高杉が行くと言うのだからそれに従うしかない。はち切れそうな胃を抑え、後を追った。