話(高校生連載)

□従属の意思
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暖かかった店を出ると、外の風が一層冷たく感じられた。高杉と並び、大通りの歩道をゆっくりと渡っていく。

渡り終える直前、信号は点滅を経て赤色に変わった。通りを走っていく無数の車の音を背中で聞きながら、二人並んで進んでいく。

暫く無言で歩くうちに、道は段々と細くなっていった。車の音もいつの間にか聞こえなくなっている。周りを畑に囲まれた長閑な景色の中に、俺は導かれていた。

こちらの方に来るのは初めてだった。街中にはまだこんな田舎のような場所も残っていたのか。

物珍しくて辺りを見回す。学校と家の往復以外の道をほとんど知らない自分にとって、新鮮な驚きを与えてくれる風景だった。

白い猫が前方を横切っていく。首につけられた鈴が、冷たい空気の中によく響いた。何故だかその音は、ひどく愛しく懐かしく感じられた。

「何の為に身体を売ってんだ?」

唐突に、高杉が口を開いた。この男には前置きというものがないのかもしれない。

「…いや…」

遠ざかっていく白猫を目で追いながら、歯切れ悪く答える。理由を聞かれることは予想していたし、どう答えるかもある程度考えていた。とりあえず金さえ貰えればいいのだから、適当に答えるつもりだった。

しかしいざ高杉の口から問いが発せられると、なんと説明すれば良いのかわからなくなってしまった。

この男には嘘をつきたくないと、ふいに思った。

それと同時に、本当のことを言って軽蔑されるのも嫌だと思った。

自分でも何故かはわからない。わからぬままに二つの思考はせめぎあって、俺の口内を荒らした。舌がもつれる。続く言葉を何も言えない。

横目でちらりと見られ、緊張感でますます言葉を失った。

「誰かに脅されてんのか?」

「…」

「言いたくねェってか…まァいい。べらべら話されんのも興醒めだしな」

怒られるかと身を固くさせていた俺に、高杉は軽い口調でそう言った。呆気に取られて肩の力が抜けた。

不思議な男だ…。

少し前をゆく高杉を追いかけながら、頭の中では言葉を探し続ける。

もしかしたら、こいつは地獄からやってきた俺の救世主なのかもしれない。

そんな突拍子もないことを思いついた。けれどまるっきり的外れでもなさそうなその予感に、俺は薄いコートの下で震えた。







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