話(高校生連載)
□知ってはいたけれど
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中学一年の時からの腐れ縁は、高校に入ってからも切れなかった。クラスは七つあるにも関わらずまた同じクラスだ。嫌ではないが、そろそろ気持ちが悪い。
山崎退、高校二年生。
そして友人である坂田銀時。
早いもので、もうかれこれ五年の付き合いだった。しかもずっと同じクラスという謎の縁付きで。
「やべぇ、俺、恋に落ちた」
「またですか?」
「また、とか言うんじゃねーよ!今度は本気なんだよ!運命の人見つけちまったんだよ!」
「運命ねぇ…」
「これはもう出会うべくして出会ったとしか言えねーよ!なんかもうピンと来たんだって!」
昼休みの教室の片隅で苺牛乳片手に熱弁を振るう友人を、山崎は少し冷めた目で見ていた。
季節は春の終盤戦だ。桜はもうとっくに散って校庭の木々には葉が茂っている。窓際にある山崎の席は五月の陽射しでぽかぽかと暖かい。新学期早々は大抵名前順なので、番号が最後の方である山崎は毎年この日光の恩恵を受けていた。
しかしそんな長閑な光の中で、目の前の男は恥ずかしげもなく暑苦しい程に愛を語っている。普段のやる気ない雰囲気からは、全く想像出来ない変わりようだ。
「今度はどんな人なんです?」
あんぱんを齧りながら、山崎は気のない口調で聞いた。
坂田は惚れっぽい男だ。五年の付き合いの中で、一体何度こんな会話を繰り返してきただろう。
クラスの女子はもちろん、ゲーセンの店員、ペットショップの店員、ケーキ屋の店員、エトセトラ。ざっと二十人くらいいるんじゃなかろうか。そのどれもが例外なく一目惚れだった。
しかも惚れたら一週間も経たずに告白までしてしまう。
あっさり振られることが基本だったが、稀に付き合い始めることもあった。けれど全ての恋に共通しているのが、坂田の気持ちが三ヶ月ともたないということだった。
熱しやすく冷めやすい、思い立ったら即行動。そんな言葉をまさしく体現しているような男が、坂田だ。好かれた方からすれば迷惑な話だろうが、不思議と関係がこじれた例はない。
馬鹿すぎて憎めない、というのが友人である山崎に寄せられる彼女たちの言葉だった。得な性格なのだと言えよう。
毎回その空騒ぎに付き合わされる身としては、一度くらい誰かお灸を据えてやってくれと思わないでもないが。
「なー、聞いてるか?」
「聞いてませんでした」
「なんでだよ!こんな重大な告白してんのに!」
「慣れって怖いもんですね」
「だから、今回はこれまでとは違うんだっつーの!」
坂田はますますヒートアップして、声を荒げている。昼休みだからそれほどクラスに人は残っていないものの、完全に注目の的になっていた。まだ新しいクラスになったばかりで、坂田の悪癖を知らない者が多いのだ。一年もすれば誰も気にかけなくなる。
「で?どこの誰なんです?」
「…お前、誰にも言うなよ?」
急に坂田が声を落とした。自分が黙っていたところでどうせそのうち噂は広まるのだが。面倒なので口答えはせずに頷く。
「土方、十四郎」
「…え?」
耳打ちで伝えられた名前は、山崎の予想の範囲を軽々と飛び越えていた。