話(高校生連載)
□知ってはいたけれど
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なんで、よりにもよって。
固まった山崎の前で、坂田はカミングアウトを終えた達成感からか笑顔を浮かべている。
この人今度こそ頭の螺子何処かにやっちゃったんじゃなかろうか。そんな思いで見やるも、坂田はますます笑みを深めるばかりだ。
この際、性別は置いておくことにする。それ以上に重大な問題があるからだ。
土方について、山崎が知っていることはそう多くない。しかしその数少ない情報で十分、親友の想い人がとんでもない人物だということは推し量れた。
一年の時は、男子生徒相手に体を売っているという話を聞いた。
二年にあがる直前、今度は魔王に魂を売ったという話が聞こえてきた。
とりあえず、まともな人間じゃないということしか噂からは伝わってきていない。面倒ごとを嫌う自分は、近づかないでおこうとしか思わなかった。
「あんた、馬鹿でしょう」
「なんでだよ!」
二年になって同じクラスになり、山崎は初めて噂の土方を見た。華奢で色白で、精神を病んだ寿命の短そうな男だと思った。近づかないでおこうという思いは変わらなかった。
「一体どこをどう見たら好きになれるんですか」
これまで坂田が好きになったのは、全員健康的で可愛らしい普通の女ばかりだったのだ。それがどう間違ったら男、しかもあんな厄介そうな相手に惚れるのだろう。
「ぶらんこ乗って、歌ってんだよ」
「は?」
「俺んちの近くに小さい公園あんだろ?たまに夜いるんだよ」
「で、ぶらんこに乗って歌ってんですか?」
「そうそう」
「それを見て、好きになったと?」
完全に呆れ顔の山崎など気にも留めず、坂田は嬉しそうに何度も頷いた。
「いや、俺だって最初はなんかの間違いだとは思ったんだけどよー、やっぱこの気持ちは本物なんだって!」
「…あの人の噂、知ってんでしょ?」
しかも、ぶらんこに乗って歌うって。完全に病院に放り込んだほうがいいレベルだ。
「大丈夫、俺が救い出して幸せにすっから」
真面目な顔で、坂田は頭のおかしいことを言う。なんなら二人一緒に病院に行けばいいんじゃないだろうか。
これまで何度も何度も何度も思ってきたことだが、いい加減付き合いきれない。絶交だなんて言える年齢ではないが、暫く交際を絶ちたいと今度こそ本気で思った。せめて熱が冷めるであろう三ヶ月後くらいまでは、安全な場所に避難していたい。
「魔王、めちゃくちゃ強いらしいですよ」
「俺の中学の時のあだ名覚えてるか?」
「…白夜叉」
「だろ?負けねーよ、魔王なんかに」
面倒ごとは御免だが、その対決だけは見てみたいと思った。
そうして山崎は、いつも通り巻き込まれていくことになるのだ。
終
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