話(高校生連載)
□ディア・ディア・ディア
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「ちょっ、土方さん!鍋吹き零れてますよ!」
「俺じゃねェ、鍋は高杉だ」
「好きにさせてやりゃァいいだろ」
「なんであんた変なところで寛容なんですか!」
「…手伝おうか?」
「駄目だ、座ってろ」
「そうですよ。主役なんだから」
「せいぜい楽しみにしてやがれ」
「いや…むしろ手伝わせてくれた方が有難いんだけど…」
青いカウンターキッチンはそれなりに広いけど、育ち盛りの男が三人もいるとやはり窮屈そうに見える。
その上全員料理が不馴れとくれば、無駄な動きも多くてとても見ちゃいられない。
だからこうしてカウンターの反対側から声をかけるんだけど、三人は一向に俺を受け入れてくれなかった。
誕生日なのに、なんなんだろう。このもどかしさと疎外感。
「じゃ、お前味見係な」
落胆を隠さずにいた俺に気づいたのか、土方が切ったばかりのきゅうりを俺の口許に差し出した。一瞬、目を丸くして固まる。
未調理のきゅうりの味見って、どう考えても無意味だ。新鮮かどうか答えればいいんだろうか。水分も程よく含まれていてフレッシュですね、とか言えばいいのか?
なんて理性では冷静さを装ってみても、心の中はもうお祭り騒ぎだ。
土方があーんしてくれるとか、萌えシチュエーション過ぎる。欲を言えばふーふーもつけて欲しかったけど、生のきゅうりではそういうわけにもいかない。…きゅうりにふーふーって、なんかいやらしいな…。
「なんだよ、食わねェのか?」
「いやいやいや!超食います!」
慌ててかじりつく。勢い余ったように見せかけて、土方の指の第一間接まで口に含んだ。
「指まで食うな馬鹿!」
「悪ィ悪ィ。きゅうり、うまかった」
お前の指はもっとな。
「そら良かった。じゃ、あとはあっちで大人しくしてろ」
そんな俺の邪な感想を知るわけもなく、土方は一度は俺の口の中にあった人差し指をソファの方に向け、命令口調で言い放った。
それに真面目な表情で頷いて、大人しく踵を返す。その途端に顔中がニヤニヤと弛んだ。
危ないところだった。こんな顔見られたら、また気持ち悪いとかなんとか言われてしまう。
足早にソファへと向かい、顔面から広い座面に飛び込んだ。鼻頭がちょっと擦れたけど、そんなことは今どうでもいい。
土方のあーんウィズきゅうり…なんという破壊力。
何度も何度も脳内リピートをする。そのうちに少しずつ変化して、土方の姿は裸エプロンになったりメイドさんになったりした。たまらない。
極めつけはもちろん、裸にリボンだ。
「俺を味見して?」なんつって!やばい。そんなこと言われたら、味見なんて軽々超えてマジ食いしてしまうに決まってる。
「いま何考えてるか当てましょうか?」
「おわっ!びっくりさせんな!」
跳ね起きてクッションを投げつけるも、難なくキャッチされた。そう来るだろうと思った、みたいなドヤ顔で山崎は俺を見下ろしている。
まったく、可愛いげのない幼馴染みだ。少しは土方の愛らしさを見習ってほしい。それはそれで気持ち悪いけど。
「もう出来上がるんで、心身ともに落ち着けておいて下さいね」
「…わァったよ」
大人しくソファの上で膝を抱えた。深呼吸を何度か繰り返す。萎えるようなシチュエーションを想像をしながら、料理が運ばれてくるのを待った。