話(高校生連載)

□喪男ブルールーム
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ドアを開いて玄関へ先に通してやると、土方は立ち止まって四方を見回した。きっと目を丸くしていることだろう。その表情が見たくて、俺はさっさと靴を脱いで土方の正面に回り込んだ。

「真っ青だろ?」

「そうだな」

予想に反して土方の表情には目立った変化がなかった。切れ長の目は見張られることもなく、今はもう周囲の観察を終えて俺を見ている。子供のように澄んだ目だと思った。俺が説明するのを待っているようだった。

「親父が馬鹿でさ、今はフランスに単身赴任してんだけど…死んだ母さんが青好きで、それで、なんかこう、罪滅ぼしっつーの?」

「罪滅ぼし…?」

「母さん…自殺だったんだ。親父の女遊びのせいで心病んで、それで…。すげェ自己満だよな。家のもの全部青くして、何で死者が浮かばれるんだっつーの。むしろ俺の気持ちが沈むわって」

「…」

あ、まずい。いきなり重い話をべらべらと。これで何度女の子にドン引きされたことかってのに、俺はまた。でも止まらないんだよな、残念ながら。

全てを一人で抱え込み続けて最期にぶちまけて死んでいった母さんの顔が、恋をしている時にはいつも頭にちらつく。
想いを溜め込めば俺もあんな風に壊れてしまうんじゃないかと、いまだに恐れているのだ。情けないことに。

「…悪いな、いきなり辛気くせーこと言って…でも、知って欲しいんだ、俺のこと。俺、お前が好きだから」

「え…?」

「あ、でも安心しろよ?!いきなり手ェ出したりはしねーから!」

首を傾げた土方の前で、俺は広げた両掌をぶんぶんと振った。
土方の噂は聞いている。体目当ての男たちと一緒にされるのは嫌だ。俺は純粋に、人として、土方に恋をしたのだから。

土方は黙って俺の顔を見つめている。何を考えているんだろうか。断りの言葉だろうか。帰ると言うだろうか。何度告白を経験しても、この待ち時間は緊張する。

「俺は…高杉の所有物だから、お前とは付き合えない」

土方は真っ直ぐに俺を見て、そう言った。小さな声だったけど、迷いのない強い口調だった。

高杉、と言った時に初めて土方の表情が変わった。照れるように、薄い桃色の唇の端が角度を上げたのだ。それは本当に僅かな動きだったけど、俺に気づかせるには充分すぎるほどだった。

「付き合ってんの…?」

「違う、俺はただの飼い犬だ」

「でも…好きなんだろ?」

土方は答えなかった。答えずに、答えた。だから俺も、わかった素振りをせず、わかった。

「俺、友達からで全然いいからさ、とりあえず上がれよ」

それは本心だった。もちろん付き合えるに越したことはないけど、今は大人しく諦めるしかない。関係はどうであれ、とにかく俺は土方の傍にいたいのだ。もっと知りたいし、もっと色々な表情が見たい。

俺は男と女の友情は信じないけど、男同士の友情なら完全に信じている。きっと俺達は良い友達になれるはずだ。そうだ、山崎にも紹介しねーと。

「…お前も、変な奴だな」

靴を脱いで俺の隣に立つと、土方は少し頬を緩めた。それは笑顔と言うにはあまりにささやかな、けれど確かに俺に向けられた笑みだった。







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