話(高校生連載)

□短い光・長い光
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面倒ごとには近付かない。他人とは近すぎず遠すぎずの距離感で付き合う。興味なんて持たれたくない。なるべくなら構ってくれるな。そう思って生きてきた。

そんな山崎とは対照的に、腐れ縁である坂田は面倒など省みずとことん人に接近する男だ。山崎はそれを冷めた目で眺めつつ、たまにうっかり巻き込まれたりしながら所謂思春期の日々を過ごしていた。

けれどもう波乱の渦の中に引っ張りこまれるのはごめんだ。なにせ今回は相手が悪すぎる。なんなら校内で最も関わり合いになりたくない人間だ。いや、この際いっそ日本中でもいい。

だから本当にもう勘弁してほしかった。いくら言葉を重ねられたところで会う気など起きるわけがない。

「来いって、とりあえず一回」

「嫌です」

「良い奴なんだよ、友達になれるって!」

「なれなくていいです」

こんな会話も一体何度目だろうか。いい加減しつこくて腹が立ってくる。でも怒るのは疲れるから、決まった言葉を返し続けるだけにしていた。

それ以外の脳機能はあんぱんを食べることに集中させる。

坂田は自作の弁当をつつきつつ、今度は睨みをかせた目で訴えかけてきた。ただしベースが死んだ魚の目なので迫力など微塵もない。これじゃウサギだって怯まないだろう。

丸無視であんぱんをかじる。噛む。飲み込む。

やっぱりあんぱんは良い。心を落ち着けてくれる。ストレス社会に生きる若者の味方だ。

「…恩人の頼みだぞ」

順調に働いていた脳が、坂田のその一言で緊急停止した。残りわずかになったパンを片手に山崎は固まる。

とうとう出た。この言葉に山崎は弱い。それを坂田も重々承知していて、ここぞという時に使っては面倒臭がる山崎を騒動の渦中に巻き込むのだ。

「恩人たって…何年前の話ですか」

もういい加減時効だ。そうでなくても、貸し借りの数で言えば山崎が坂田に手を貸した回数の方が今となっては遥かに多い。そろそろ解放してくれたっていいじゃないか。

「頼む!」

目の前で坂田が手を合わせる。頼むから頼んでくれるなと山崎も言い返したい気持ちだったが、つい反射的に頷いてしまった。

なんという悲しい性質だろう。俺はパブロフの犬か。自身に絶望する山崎に対し、思い通りに事が運んだ坂田はひどく嬉しそうだった。ケチャップのついた口の端をにんまりと上げている。腹のたつ顔だ。

「じゃあ放課後そのまま俺の家な!」

「…ちょっと会ったら帰りますからね…」

溜め息をついて、もう餡が微かにこびりつくだけになったパンを一口に含んだ。
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